Vol.2 No.4 2009
15/92
研究論文:実時間全焦点顕微鏡の開発・製品化(大場)−275−Synthesiology Vol.2 No.4(2009)執筆者略歴大場 光太郎(おおば こうたろう)1991年東北大学大学院博士課程修了。博士(工学)、2009年より独立行政法人産業技術総合研究所知能システム研究部門 副研究部門長、兼 ディペンダブル・システム研究グループ長。最近は人間生活環境下で実際に使えるロボットを目指し、ユビキタス・ロボット、ディペンダブル・システムなどの研究に従事。IEEE、日本機械学会会員。現在、筑波大学 連携大学院 教授、芝浦工業大学 連携大学院 教授、東京大学大学院情報学環 客員准教授も兼務。査読者との議論 議論1 構成方法質問・コメント(小林 直人:早稲田大学研究戦略センター)本論文で著者は、最初の部分の「実時間全焦点画像の構成」という、オリジナルな考えに基づいて情報的構成を行い、これをベースに「実時間全焦点画像の構成」を実現するためにハードウエアを含めたシステム的構成を行い、逐次目標を明確に向上することにより、最終的に実時間全焦点顕微鏡の製品化に持っていきました。これは極めて貴重なことであり、ここでは①第1種基礎研究から製品化までの一貫性、②戦略目標の逐次的深化・明確化、③それに伴うシステム構成の向上、④以上を踏まえた実際の製品化とその後の商品としての維持、という他には無い極めてユニークな研究開発を、紆余曲折がありながらも継続して行い完遂したことが示されています。その意味でシンセシオロジーの論文に相応しいと考えられました。一方、シンセシオロジーでは構成的手法の独自性が課題の一つです。本論文にあっては、技術の進展、あるいは構成の進展に伴って戦略が明確になり、それにつれてシナリオも明らかになってきたと推察されます。すなわち、最初から「実時間全焦点顕微鏡の開発・製品化」という戦略目標があったわけではなく、実態は要素技術を構成している間に、戦略目標が深化し、そのために次のステップで行う課題が明確になり、要素技術の選択とシステム化の実現を経て、その次の戦略目標が深化するというサイクルを描くことになったと理解しました。すなわち、次のステップに進むたびに技術要素を選択していき、そのたび毎に戦略が明確にされ進化したと推察されます。したがって結果的には、要素技術の「戦略的深化・選択型構成法」とも呼ぶべき手法がとられたと推察されます。(下図参照)(シンセシオロジー、1巻2号p.141の図に追加修正)。この認識は正しいでしょうか?回答(大場 光太郎)おそらく、製品化の過程でとってきた手法は、「戦略的深化」であったり、「選択型構成法」であるのかと思いますが、それらはいずれも個人の経験と周りの人脈に依存し、ロジックとしてきれいに書き下して共有化するのは非常に難しいと感じています。FS期の過程においては、幾つかの構成要素の取捨選択、その構成要素に特化したアルゴリズム開発、さらにはそれを実現するためのパートナーとの出会いなど、上記の「戦略的深化・選択型構成法」ともいうべき手法に相当するものと、それとは言い難い“幸運な偶然”に大きく左右されてきたことがあり、それらを敢えて書き加えました。というのも、暗中模索しながら迷路を彷徨し、ゴールに到達した後で、ここが大きな分岐点であったと後付けで理由はつけられるものの、当の本人は彷徨っている最中は夢中で、恥ずかしながら決して理論的な決定をしていたとは、当時を回想しても思えないためです。以上のようなことを、「第2章、紆余曲折の歴史」で述べておきます。議論2 「死の谷」コメント(中島 秀之:はこだて未来大学)「死の谷」という記述が随所に見られますが、死の谷というのは技術的な見通しはあるが、製品化のための他の要件(主にコスト)が満たされない部分を言うのだと思います。原理的に解決しているので基礎研究としては面白くないし、企業としては開発コストがかかりすぎるため、誰もが手を出さない研究開発の狭間です。回答(大場 光太郎)死の谷についてですが、若干、言葉の認識が私の意図しているところと違っているようです。査読委員は「死の谷というのは技術的な見通しはあるが、製品化のための他の要件(主にコスト)が満たされない部分を言うのだと思います。」と書かれているのですが、見通しがついたらそれは死の谷ではないような気がしています。ここでは、「死の谷は、青木が原の樹海のように、彷徨いこんだらゴールの方向が分からなくなり、まさに紆余曲折して出口に達するもの」という意識で死の谷を使っています。コメント(中島 秀之)研究の見通しが立たない部分(ブレークスルーを必要とする場面)は「関門」、「難関」とか「ボトルネック」という表現で良いと思います。「死の谷」についてはWikipedia 「デスバレー(研究開発)」の項目を参照されると良いと思います。議論3 構成的記述コメント(中島 秀之)我々が通常の研究論文を書くとき、それは研究が完成した時点から振り返って、ある意味後付けの道筋を示すものです。つまり、いくつもの選択肢のうち1本を選んでやっと辿り着いた結論が、あたかも最初からそうであったように、そこへの道筋を何の迷いもなく選択して辿り着いたように記述します。最終的に選ばれなかった選択肢や失敗の積み重ねは論文には記述されません。最初の原稿は、そのような意味で通常の論文のように記述されていたと思います。通常の理論的・分析的論文はそのような構成で良いと考えます。何故なら、理解すべき現象がすでに存在しており、その理解の道筋を示すのが論文の目的ですから。しかしながらシンセシオロジーは構成の学問体系です。解は一つとは限りません。多くの可能な道筋の中から、特定のものを選ぶという選択それ自体が構成学における重要な要素であり、その記述が必須です。2章「紆余曲折の歴史」の冒頭に述べられている内容が重要であると考えています。戦略目標の遂次的深化戦略的深化・選択型構成法統合技術技術要素A技術要素B技術要素C図 シンセシスの構造
元のページ