Vol.2 No.3 2009
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研究論文:活断層からの地震発生予測(吉岡)−198−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)しかしながら、実際の地震発生の評価の困難さを考えると、多様な評価結果が存在するのは当然のことで、その中の一つの評価結果として数字を出したということに意味があると考えて公開した。結果として、この「全国主要活断層活動確率地図」は損保業界などからは一定の評価を得るとともに、評価結果のデータを基礎データとして使用したいという問い合わせが相次いだことからも、社会へのインパクトは示されてきていると言えよう。4 予測の限界と今後の課題このように「全国主要活断層活動確率地図」は統一的なモデルに基づく全国評価という面で画期的なものであったが、なお活動セグメント間の連動性の評価については困難で、将来発生する地震の規模を直接予測するには至っていない。これについては研究を継続中であるが、二つの活動セグメントが過去の地震で同時に活動したか、ある時間差をおいて活動したのかを判別するのは、地質学的な調査による時間分解能をはるかに越えており、この手法の限界と言わざるを得ない。そこで、この問題を解決するために、最近発生した地震の歴史記録を収集するとともに、研究センターの他のメンバーによって、動的破壊の数値シミュレーションにより、断層の分布形状と破壊の伝播との関係を探る研究が進められているところである[9]。また、近年のいくつかの被害を伴った地震を見ると、2004年の新潟県中越地震(マグニチュード6.8)のように、活断層沿いで発生したにもかかわらず活断層に大きなずれが生じなかった例があるほか、2008年岩手・宮城内陸地震のように、明瞭な活断層が確認されていなかった場所でもマグニチュード7.2という規模の地震が発生したりしている。これらの地震については、これまでの評価手法では予測不可能と言わざるを得ない。さらに、各地で活断層の詳細な調査が進められた結果、いくつかの地点で活断層の過去の活動間隔が必ずしも一定ではないことを示すデータも得られつつある。これについては、調査データの不備であったり、調査地点の特殊性による例外である可能性も残されているが、活断層の活動の周期性についての根本に立ち返ってモデルを見直すことも今後必要である。一方、2008年岩手・宮城内陸地震のようないくつかの例外的な事例に引きずられて、むやみにモデルを複雑にした結果、そのモデルによる評価に耐えるだけのデータが得られていない断層についての評価ができなくなるようでは、本末転倒のように思える。自然現象には例外がつきものであり、何が例外かという見究めが非常に重要であると思われる。地震発生の長期的予測の検証には、数千年、数万年という時間が必要であり、検証が事実上不可能な中で、いかに単純で汎用性のある妥当なモデルを構築するかが今後の課題でもある。5 むすび以上のように、活断層から発生する地震の予測については、この10年あまりの間に画期的な進歩を遂げた。しかしながら、なお社会が必要としているものとのギャップは非常に大きいと感じることがしばしばである。たとえば、ある予測と異なる地震が発生した際に、「この地震は特殊で例外的なものでした」と言っても、社会には通用しない。その意味で本研究の達成度はまだまだ低いといわざるを得ないと考えている。また別の問題として、日本社会にはいわゆる「お墨付き」を求める傾向が根強く、それが行政に対する責任転嫁につながり、その結果、行政は確実なことしか公表しないという傾向にあるように思える。今後、活断層の活動予測をできるだけ正確に、かつ、網羅的に社会に提示し、地震に対する備えとして活用してもらえる知的基盤を整備することが、筆者の社会的責務であると考えている。十分な正確さで、完全に網羅的な情報を提示することがいきなり実現できるわけではないが、全国規模での調査結果の出版はその第一歩として意義のあるものだと考えている。この研究手段が有効であったかどうかについては、今後、この研究成果に対して社会がどう動いたかによって、評価されていくと考える。謝辞本研究は、産業技術総合研究所の前身の一つである地質調査所での工業技術院特別研究「活断層等による地震発生ポテンシャル評価の研究」(平成6年度−11年度)やそれ以前の研究から継続的に実施されてきたものである。その間に多くの研究者による調査研究や議論が繰り返され、本研究が進展したことは言うまでもない。本研究は共同研究者の粟田泰夫氏をはじめとする多くの方々の共同作業による成果であることをここに明記し、深く感謝の意を表したい。参考文献松田時彦:1891年濃尾地震の地震断層,地震研究所研究速報,13,85-126 (1974).粟田泰夫,苅谷愛彦,奥村晃史:古地震調査にもとづく1891年濃尾地震断層系のセグメント区分,平成10年度活断層・古地震研究調査概要報告書,地質調査所速報,EQ/99/3,115-130 (1999).吉岡敏和,粟田泰夫,下川浩一,石本裕己,吉村実義,松浦一樹:トレンチ調査に基づく1891年濃尾地震断層系・温見断層の活動履歴,地震(2),55,301-309 (2002).Working Group on California Earthquake Probabilities: [1][2][3][4]
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