Vol.2 No.3 2009
60/74

−250−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)報告:学問と技術の統合- 横幹連合・統数研・産総研合同ワークショップ -を解決に導く、そして個別課題の解決に留まるのではなく、解決策の普遍化を目指すことが重要である、このように考えられます。ここまでいってはじめて横断型科学技術と呼べるのではないでしょうか。その技術は縦型分野の単なる融合ではなく、融合化や統合化を促進する技術であるべきです。同時に、イノベーションを引き起こすには、この技術を支援することが重要になります。「知識社会におけるモデリング」統計数理研究所長北川 源四郎「モデリングとは何か」という仮題をいただきましたが、近年モデルの概念や考え方が変わってきているということを中心にお話します。情報社会では、多くの情報を持った方が勝ちと言われましたが、次第に“だれでも、いつでも、どこでも”大量の情報にアクセスできるようなユビキタス社会の時代になりつつあります。実際にこのようなユビキタス社会が実現すれば、情報自体には相対的な価値はなくなるわけですから、いかにその情報を活用して、目的に即した情報や知識を獲得していくかが勝負になってきます。社会制度に関していえば、既に第二次世界大戦直後から資本主義社会は変質してポスト資本主義社会に移行したといわれています。P. E. ドラッガーは、ポスト資本主義社会における資源は、資本でも土地でも労働でもなくて知識である、つまり、ポスト資本主義社会は知識社会になると本の中で述べています。そういう意味で、今後知識社会に移行していく中で、科学的な方法が果たす役割を考えていく必要があります。そこで社会における科学者の果たす役割を考えてみると、かつて経験と勘に頼っていたことに科学的な方法を適用してきたところにあったのではないかと思います。かって匠が担った製鉄も今日では科学的に管理されていますし、熟練した漁師に尋ねた明日の天気も今や数値計算を使って予報しています。また、マネージメント、マーケティング、ファイナンスやリスク管理など勘に頼る面が強かった分野でも、科学的な方法が適用されるようになってきています。科学的発見自体を科学的にやろうという発見科学もありますし、サービスを科学的・工学的に考えようというサービス・サイエンスも提唱されています。科学の対象や方法論を考えて見ると、19世紀ころまでは知識とは普遍的真理に関するものでした。ところが19世紀半ばにダーウィンの『進化論』が出現して、普遍的真理だけでなく進化的世界が考えられようになりました。その影響を受けて19世紀末にK.ピアソンは現実世界のあらゆるものを科学の対象とすべきということを主張し、それを実現するための科学の文法を提唱しました。方法の学としての統計学はその結果発展しました。統計学は確率論的世界観に基づき、実験科学あるいはデータ主導型の方法論の基盤となりました。数学が機械論的世界観のもとで、理論科学・原理主導型であるのとは対照的です。いずれにしても、科学の言語と科学の文法を19世紀までに確立して、それが20世紀の科学・技術の研究を主導してきたと言えます。さらに21世紀になると、普遍的真理、進化的世界、システム世界だけではなく、サイバー世界や人工物が科学研究の重要な対象になりつつあります。その背景には20世紀半ば以降の情報通信技術の急速な発達があります。サイバー世界や人工物を扱うとき、従来の理論科学と実験科学という2つの方法論では複雑な非線形系や多変量系の理解や予測が難しいので、これをシミュレーションの方法で解こうという計算科学が生まれ、既にかなり確立しています。計算科学は理論主導型でありながら、科学者の直感や経験によらず計算機に依存する方法論で第3の科学とも呼ばれています。するとデータ主導型で計算機に依存する方法論も当然考えられるわけです。これは科学の分野にも社会の中にも蓄積されつつある大規模、大量、異種のデータを活用する科学的な研究法で、データ中心科学あるいは第4の科学と呼ばれています。ただし、データ中心科学が計算機依存型の帰納的方法であるとはいっても、研究の対象自体が変化していますので、計算機を用いて全部力ずくでやるというものではありません。研究の対象がサイバー空間となると、実体としては捉えられないし、予測や意思決定に有用な情報を求めようとするならば、そのための知識は必ずしも普遍的真理である必要はありません。モデルで言えば、実体の表現ではなく、対象の持つ機能を表したものになると考えられます。人によって着目する機能が異なれば、モデル自体もモデルの役割も大きく変わります。今日の知識社会においては、私たちは目的に応じて知識を獲得し、あるいは知識を発展させていくわけですが、モデルはそのための道具であり、推論の根拠を示すものといえます。モデルもその役割も場合に応じて変わるわけで、理論、知識、データ、目的などすべての情報を統合してモデルを作っていく必要があります。問題はどうすればそれが実現できるのかです。統計学の中では赤池先生が考案されたAICというモデル選択基準がとても有名です。モデルは近似であって、真のものは未知または存在しないという立場をとると、モデルは考えられた範囲でのベストなものを見つけることしかで

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です