Vol.2 No.3 2009
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−248−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)報告:学問と技術の統合- 横幹連合・統数研・産総研合同ワークショップ -ソンはその一人で、彼の思想は唯物的、物質的であり、それは精神や文化にも及ぶとしています。脳の働きも物質過程や物質科学の言葉で記述できると考えているわけです。「還元的な知の統合」に対して私たちが提唱するのが 「生成的な知の統合」です。生成的ということで、新しい知、新しい知的活動の場、新しい技術、新しい産業を作り出す。そこに知の統合の根拠と目的を求めようというわけです。では還元主義とか「還元的な知の統合」とはどこが違うのか。日本学術会議の2004年の報告書『新しい学術の体系』では、物質科学、生命科学、人文・社会科学などは秩序原理が異なるのだから、全てを脳とか物質に還元できないと述べています。むしろそれぞれが境界条件となり、多層構造をなしている。この多層構造をもとにした知の統合を考えなければなりません。さて、知の統合とは“言うは易く行うは難し”です。既に学術の各分野には膨大な知の集積があり、その上に新しい知が積み上げられていきます。それらを全部学び取るのは不可能です。異分野の言葉を理解することさえ難しい。例えば、脳科学でIPLは下頭頂野、免疫学でIL−1といえばインターロイキン−1を指します。この略称がわかっていないと論文は読めない。このような状態で知の統合は可能なのか、とても深刻な問題です。しかし、各分野が集積した知には、その分野の専門家が意識できない限界があり、その限界は、知の集積のある段階で他の分野の視点から明らかになるのです。すなわち専門性というものです。このとき科学の共通の言葉、数学 (論理)があれば、また専門家が隣にいて聞くことができれば、限界をお互いに了解し合うことができます。「存在の二分規定」ということがあります。質量と形相、物質と論理、「もの」と「こと」、構造と機能、ハードとソフトなどです。これらはある同じことがらを別の面から言っているわけですが、両者を結びつけるツールというべきものがあって、そのツールこそ「横断型基幹科学技術」であり、それにより知の統合も可能になるのではないかと考えています。ではツールを借りてどのようにして知の統合を行うのか。伝統的な学問分野同士の間での結びつきは還元主義どおしの結びつきですから知の統合とは言いません。例えば、生物学と物理学から生物物理学が生まれましたが、この場合は物理学が生物学の一部を吸収して生まれました。このようなものではない、つまり生成的な組み合わせによって知の統合が起こり、大きな可能性を生むのだろうと思います。サイバネティクスは巨大な知の統合の例です。伝統的な電気工学や人文分野の経済学、心理学に、新しい通信工学、制御工学などが結びつき、その先に人工知能、ヒューマンインターフェース、行動科学、経済予測といったものが出てきました。電気工学と機械工学に制御工学が融合したメカトロニクスではロボット工学が生まれました。ライフサイエンスでは盛んに知の統合が起こっています。バイオインフォマティクスとか制御生物学です。計算論脳科学というのもあります。国土・都市、経営・経済においても知の統合は考えられます人口社会という言葉があります。これは1つの「場」と呼べるもので、これを介して様々な学問が統合されて最適化、モデリングがスタンダードな技術のアプローチとなり、金融政策、税制改革、市場調査、リスク管理、サービス工学などにおける適切な新しい成果が得られるものと期待しています。これまでもいろいろなモデルがあって、例えば災害回避や交通シミュレーションで答えが導かれていますが、実際の政策にあまり使われることがなかったのは、目的のために、そのたびごとにモデルを作っていた、つまり、モデルに普遍性がなかったからです。人口社会では“エージェント”というものを公理的に定義し、そのエージェントの動きによっていろいろな現象が1つのモデルから出てくる。まさに文と理の融合が獲得できるのではないか、それを横幹連合でやってみたいと思っています。言語学政治学経営学経済学社会学…人口社会…金融政策税制改革市場調査産業予測リスク管理サービス工学…最適化モデリングマルチエージェントゲームシュミレーション制御デザイン説明力のある普遍的なデモルをもとめて横 幹「知の統合の研究事例」横断型基幹科学技術研究団体連合監事筑波大学理事・副学長 鈴木 久敏私は、学際とか融合、それらと横断との違いについて概念整理をし、次いで「知の統合」に関するインタビュー調査を踏まえた企業等の事例を報告します。最後に、まとめと提言をしたいと思います。まず、2つの基本的なディシプリンの周辺で、これまであ
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