Vol.2 No.3 2009
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−247−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)報告:学問と技術の統合- 横幹連合・統数研・産総研合同ワークショップ -ません。日常生活で長い間メガネをかけてきた人は、新しいフレームの圧迫力の弱さが、逆に“もの足りなさ”を与えてフィット感を減じているようなのです。新しいフレームを使ったメガネは実はもう商品化され売られています。売るときお客さんにどのメガネがいいか、どのように推奨するかを技術的な面から検討してみます。まず、メガネを必要としている人は一般的に視力が悪い人です。自分のメガネをはずしてしまうと、度のないガラスをつけたメガネフレームをいくらかけたところで、鏡に映る自分の姿をよく見ることができません。そこでコンピュータグラフィックの自分の顔に別のメガネをかけて見てもらうことになります。これ自体はそれほど難しくはありません。問題は、メガネをかけたときの“印象”です。しかも自分で感じる印象ではなく、第三者があなたを見たときの印象です。「そのメガネをかけると知的、クールに見えますよ」としゃべってくれるようにしたい。それは印象を得点化し、メガネをかけたときの物理量とともに数学的な感性モデルに落とし込むということです。印象を表す言葉はたくさんありますが、類縁関係から整理して言葉のマップを作りました。それら言葉の中から「優しい−怖い」とか「明るい−暗い」、「おしゃれな−ダサい」といった7対の言葉を選択し、メガネをかけた仮想顔にどう感じるか、ウェブ上でアンケート調査しました。するとメガネと仮想顔が持つ物理量と言葉の印象とはかなりの相関があります。メガネは「おしゃれな−ダサい」や「若い−老けた」という印象に効いてきます。「優しい−怖い」や「明るい−暗い」はメガネよりも顔自体が支配的に影響するようです。最終的にはいろいろなメガネを次々とつけかえて、印象を表す7対の言葉それぞれの相対的な印象度をディスプレイ上に示します。これはメガネ感性シミュレータと呼んでいます。ただし、このシミュレータは研究室用で、計測する部分まで含めると高額で場所を取ります。店頭に置くには安く、小型で、簡単に操作できる、そういうものが必要です。まだ店頭で稼動しているものはありません。顔形状のデータを収録した顔形状データベースから得た平均顔にお客さんの特徴を付加するとお客さんに“近い顔”を復元できます。それを基に個人に適合したメガネを勧められます。通常の量産品より1.5倍くらいまでの価格なら購入してもよいという調査結果があり、個人が特定されなければ顔の形状データを利用してもらっても構わないという人が6割ほどいます。これはかなり“前向き”な数字だと思いますし、消費者がモノづくりの環の中に入ることを意味しています。顔の形と感性に合うメガネを薦める個人適合フレームの推奨若い女性はそのメガネをかけたあなたを知的でクールと感じるようですサイズ適合スタイル適合クールな知的なかたいやさしい好みのフレーム気になる用語の選択別のフレームをかけた自分店頭で顧客の顔を計測感性モデル第三者の印象評価個人顔モデル(形とテクスチャ)集団の顔形状分布個人の分布「知の統合とは」横断型基幹科学技術研究団体連合会長理化学研究所理研BSI−トヨタ連携センター長 木村 英紀今日は「知の統合」についてお話しさせていただこうと思います。初めに形式的に「知の統合」とは何かということを文章で示したものを紹介します。日本学術会議では「異なる研究分野の間に共通する概念、手法、構造を抽出することによってそれぞれの分野の間での知の互換性を確立し、それを通してより普遍的な知の体系を作り上げること」を「知の統合」としていますが、これで十分かどうか。「知の統合」には少なくとも2種類あります。1つは「還元的な知の統合」、もう1つは「生成的な知の統合」で、両者は相互補完的なものです。ハーバード大学のウィルソンが1998年に『Consilience』という本を出しました。意味は「ともに跳躍すること」です。本の副題は「知の統合」となっていて、ヒューウェルが1840年の著書『帰納的諸科学の哲学』で述べた「跳躍には統合が必要である」との表現がウィルソンの考える「知の統合」にぴったり一致するとしてConsilienceを本の題名にしたようです。ヒューエルの時代は近代科学が発展し、進歩がこのまま続けば完璧な世界に到達するだろうと人々は楽天的でした。その一方、ケトレーは1833年に『社会物理学』を著し、理想主義や楽観主義ではだめで、文と理の乖離が深まったと主張しました。脳科学者でもあるウィルソンは学問の進歩で新しい啓蒙主義の時代を築くべきで、そのためには自然科学(サイエンス)をベースにした「還元的な知の統合」が必要だと説きました。脳の研究者には、脳科学の進歩が全てを解き明かすとする“唯脳主義者”とも呼べる人がいます。ウィル
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