Vol.2 No.3 2009
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−245−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)報告:学問と技術の統合- 横幹連合・統数研・産総研合同ワークショップ -トが職業人としての研究者の頭の中に定着しています。ところが、実際には必ずしもこのルートだけではありません。学会を経由しないで国民や産業界に直接貢献する、あるいはいわゆる産学連携といった形もあります。例えば、企業との共同研究、スポンサーからの受託研究、これらは学会活動を経ずに報告書などが研究機関から直接ユーザーにいっているわけです。シンポジウム、セミナー、展示会というのもあります。このようなことについてこれまで研究者は、どうもこれは本来の研究ではない、あるいは研究の本道ではないと思ってきたのではないでしょうか。やはり一流の学術誌に載らなければよい研究ではない、と思い込んできたように思います。研究機関・大学と国民・産業界を直接結ぶ流れが第2種基礎研究の特徴です。ここには、要素技術ではなく統合した技術、かなりまとまった技術、リスク評価、計量標準や規格などさまざまな形のアウトプットがあります。これらも立派な研究であると位置付け、それを論文にし、研究者のオリジナリティを認め、プライオリティも認める手段として新しいジャーナルを作ったらどうかというところから始まりました。現在我々の周りにある学術論文では科学における論理整合性、つまり事実を矛盾なく説明できることが求められています。それから新規性で、これも新たな事実や知見を創出することに価値があるというのが基本で、そのために、ピアレビューという専門家による査読制度が設けられました。学術雑誌ではプライオリティも重視されます。一方、有用性については必ずしも十分な検証を要求しませんでした。この制度はここ300年ほどの間大変うまく機能し、研究者はいち早く仕事をしよう、成果を出そうと一生懸命働き、今日に至っています。しかし、この歴史ある制度はこれまでうまく回ってきた反面、その反作用とも言える“病理”も目立つようになってきました。論理整合性を過度に追求すると、事実を矛盾なく説明するためにどんどん狭い領域に入ってしまう。新規性を過度に重視すると、他の研究者との些細な違いを強調することに集中してしまう。それらの代償として、私たち研究者は有用性の検証努力を放棄してきたのではないかという気がします。ピアレビューについては、著者とピアレビューアーがあまりにも専門分野が近いものですから、その中での狭い問題しか査読の対象になっていません。我々がやってきた基礎研究の学術誌は、特定の学会の特定の分科会の人たちの間でしか興味をもたれなくなってしまい、国民や産業界からはひどく縁遠いものになってしまいました。こういう中で、産総研では本格研究とか第2種基礎研究をやろうということになり、第2種基礎研究の方法論とはどういうものかを考えました。そして本格研究を通してイノベーションを加速する、また、持続性のある社会を構築するために科学技術は何ができるのかという問いかけへの答えも出したいと考えてきました。そもそも第2種基礎研究を記述する論文形式というのはこれまでありませんでした。自然とか人工物という研究の対象があり、それを主として分析(アナリシス)という手法でいろいろな結論を導き出すのは、今までの300年ぐらいの科学の歴史だと思います。これに対して第2種基礎研究というのは、研究目標が社会的な何らかの価値につながっているもので、その目標をどういうシナリオで実現していくのかをまず考え、必要な要素技術を選択・設定し、足りなければ自ら開発し、そしてそれらを統合あるいは構成しながら実現していくというものと考えます。この統合とか構成がsynthesisに相当しますので、それを新しい学術誌のタイトルSynthesiologyに持ってきました。Synthesiologyでのポイントは、シナリオと統合・構成を書くことになります。実は、シナリオは、今までの学術誌でもイントロダクションで書かれていました。イントロダクションでは、過去の研究の歴史を批判的に見て自分はどういう新しいアプローチをとったかを書くのですが、著者の見識がよく出ます。ただ、そこは査読の対象ではなく、どう書かれていようがさほど問われることなく済まされてきたと思います。Synthesiologyではそこをしっかりと書いてもらう、しかも、苦労話ではなく、合理的な科学技術の言葉でシナリオを書いてもらうことが大事ですし、シナリオをどう作ったかは研究者のオリジナリティでもあると思っています。同じ目標に対しても一人ひとりアプローチの仕方は異なりますので、要素技術をどう選択・統合したかにもオリジナリティがあるでしょう。Synthesiology第1巻第1号に掲載された論文タイトルを見ていただきますと、「大量精製」とか、「標準化」、「低コスト製造」、「評価戦略」、「設計・販売支援技術」、「信頼性向上」などと今までの論文とは一味違うことにお気づきいただけると思います。Synthesiologyに対してはいろいろな意見をいただいています。著者からは、「これまでの学術誌には書けないことが書けてよかった」と言われ、これは我々の狙いどおりでうれしく思っています。その一方で、なかなか書き方がわからないとも言われています。査読に関しては、分野が違っても論文が理解できる、査読ができる、査読意見が出せるということが経験上わかってきました。工学、理学、薬学、農学と専門を分けることなく、あらゆる分野から読んで理解可能な形に書かれていることもわかりました。読者からは実名入りの査読者と著者との議論が新鮮だとか、アメリカの研究者から大変興味ある雑誌だとのメールをもらいま

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