Vol.2 No.3 2009
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研究論文:乾電池駆動可搬型高エネルギーX線発生装置の開発(鈴木)−242−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)そこで、CNX電子源を用いた予備実験により動作を確認した上で2008年7月から製品開発に着手した。このCNX電子源の他にカーボン系の冷陰極電子源なども市販されていたが、それを使わずにCNX電子源を選択したのは、企業側が電子源の製造装置を当所に持ち込み、X線源の開発においていくらでも試行錯誤ができる環境ができたからである。これによって、様々な条件の実験が可能になり、2章に示した新X線発生装置の最終的な実現に至った。4 考察ここでは、今回の乾電池駆動高エネルギーX線発生装置の開発を通じて得られた知見、考察を記す。カーボンナノ構造体を用いた乾電池駆動高エネルギーX線発生装置の開発は、これまで述べてきたように、産総研で行ってきた電子加速器の省エネ化、小型化の研究とそれを応用した乾電池駆動超小型電子加速器の技術がベースとなって、それに企業の有するカーボンナノ構造体電子源の技術が統合することによって実現したものである。電子加速器の小型化の研究では、元々大型の電子加速器を保有し利用していて、それの問題点を解決したいという研究上のニーズが研究を開始した動機である。この動機に対して、省エネルギー化で小型化された加速器は非破壊検査・医療・滅菌など産業上も応用範囲が広いと考えられることから新たな開発課題として設定され、小型のCバンド加速器のためのコンポーネント開発に着手できたことがその後の加速器省エネ化や超小型電子加速器の開発につながっている。また、Cバンド小型電子加速器・Xバンド超小型電子加速器の開発では、従来のSバンド電子加速器や放射線検出技術などの技術・人材や放射線管理区域などの施設のリソースが大いに役立った。つまり、大型の電子加速器施設がなければ今回のような成果に至らなかったかもしれない。加速器の省エネ化については、老朽化した空調・冷温水の改修という機会に巡り会えたことで、省エネ化を机上の空論とせず、様々な省エネ化対策を実施することができた。この対策の中には、通常の電子加速器システムでは採用しないような、試験的な対策も含まれており、それらの効果を把握することで電子加速器の省エネ化技術・ノウハウを蓄積できたことが大きい。Xバンド超小型電子加速器の開発は、可搬型の高エネルギーX線源の社会的なニーズと産総研の電子加速器の小型化・省エネ化のシーズが結びついた。この加速器は、熱電子放出のためにヒーターがあり、真に実用的な可搬型X線源とは言えなかったが、この成果を外部に発表して我々の技術レベルを示すことができたことで、カーボンナノ構造体電子源という新たな技術に巡り会うことができた。さらに、企業側もこの開発に熱意を持って取り組み、企業の電子源の製造装置を当所に持ち込み、集中的な研究の中で試行錯誤を繰り返すことにより、わずか半年という短期間で真に実用的なX線発生装置を開発できた。このように、今回の成果は、個々の技術に加えて、研究施設、人、研究環境の変化、技術の蓄積、社会ニーズ、成果発表などの様々な要素が統合した成果と言える。ただし、それぞれの要素は、単なる寄せ集めでは新たな成果には結びつかない。たとえば、何の問題も無く電子リニアックが稼働していたなら、省エネ化・小型化できる手法やカーボンナノ構造体の電子源があっても積極的に採用しようとは思わず、その後の開発に繋がらなかったであろう。それぞれの要素技術が不完全なあるいは問題点を積極的に見つけるほうが、その問題を他の要素技術をとりいれながら1つ1つ解決していくことにより、他の要素技術との繋がりが強固になり、新たな成果に結びつくと考えられる。5 まとめと今後の課題本稿では、単三乾電池1個で動作し、高精細X線透過イメージを撮ることができるX線源の開発がどのような要素技術が結びついて実現したかについて論じた。開発したX線源は、X線源単体として従来のX線源を置きかえることができるだけでなく、予熱不要でどこにでも持っていくことができるという特徴があり、これまでに無い新たなX線非破壊検査への展開も期待される。その場合、X線源だけでなく、検出器や安全装置などトータルなシステムとして完成させる必要がある。また、大型の構造物の検査にも対応できるようにするため高周波加速方式によるエネルギー増強も必要である。今後、これらの課題に取り組み、X線検査の分野に真のイノベーションを起こすよう研究を続けていきたい。謝辞本研究のカーボンナノ構造体を用いたX線源開発は、2008年度産業技術研究開発事業(中小企業支援型)においてダイヤライトジャパン株式会社及び株式会社ライフ技術研究所との共同研究により実施されたものである。Cバンド電子加速器開発の一部は、原子力委員会の評価に基づき、文部科学省原子力試験研究費により実施されたものである。本研究は産総研電子加速器グループの協力をいただいた。電子加速器の省エネ化改修では産総研研究環境整備部門及び監視盤室の協力をいただいた。カーボンナノ構造体の企業に関して産総研一村信吾理事よりご紹介いただいた。ここに関係各位に感謝の意を表する。
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