Vol.2 No.3 2009
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研究論文:乾電池駆動可搬型高エネルギーX線発生装置の開発(鈴木)−241−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)ズが強まってきた。特に保温材などの被覆材付配管は被覆材を剥がして検査するには非常に手間がかかり、被覆材を付けたままでの検査法が望まれていた。ちょうどその頃、筆者らは3.1節、3.2節で述べたように電子加速器の小型化・省エネ化の研究を行っていた。1章で述べたようにこの研究で得られた知見がこのニーズに応えられると考え、小型化・省エネ化を極限まで追求した電子加速器・X線源システムについての概念設計を行った。ここでは、効率的な高電圧パルス発生技術、マイクロ波発生技術、電子発生技術、制御系など従来の加速器の技術を1つ1つ原点に立ち返って設計した。その結果得られた詳細な見通しに基づいて、開発・試作を行い、超小型電子加速器を単三乾電池で駆動し高エネルギーX線を発生させることに成功した。この超小型電子加速器の基本構成は大型の電子加速器と同じく電子銃、加速管、マイクロ波源、真空ポンプ、真空排気装置電源、パルス発生装置、制御システムなどで構成される。従来の加速器では加速管が多数あるので、加速管間の共振周波数を合わせるためそれぞれの温度制御に冷温水が必要だったが、この新たな加速器は加速管が1つで、乾電池で駆動する場合は熱負荷も少なく冷却の必要も無い。そこで、この加速器では、加速管の温度を制御して共振周波数を一定にする方式ではなく、周波数を変化させて共振周波数に合わせる方式として従来の加速器で大きな電力消費の原因だった冷温水系が無いシステムとしている。また、真空ポンプは高真空下では電力消費がほとんど無いイオンポンプを使用している。この加速器では、マイクロ波源として前述のCバンドよりもさらに周波数の高い9.4 GHzのXバンドパルスマグネトロン管を用いている。このマグネトロン及び電子加速器の電子銃を駆動するために、電池電源を12 kV以上に昇圧して蓄電回路に電力エネルギーを蓄積し、半導体スイッチにより約100 kWの高電圧パルスを約1マイクロ秒の幅で発生し供給する。この高電圧パルスによってマグネトロン管で発生した9.4 GHzのマイクロ波を加速管に供給することにより、電子ビームを加速し、100 keV以上の高エネルギー電子ビームを発生する。この電子ビームを重金属ターゲットに入射することで、X線が発生する。図7は、電子銃、加速管、真空ポンプ(イオンポンプ)、X線ターゲット(金薄膜)、X線出射窓で構成される加速管本体部の試作機の写真で、大きさはほぼ手のひらサイズ(うち加速管は約3 cm)、重量約1.5 kgである。この図中のフランジやバルブは試作段階でのみ必要なものであり、これらを除けばその重量は半分以下になる。この本体部とマイクロ波源や電源等のコンポーネントを小型のカメラケースに収めて片手で容易に持ち運びできるようにしている。この超小型加速器は、ピーク電力は100 kWオーダーであるが、その幅は1マイクロ秒であるため、パルスレートを低くすることによって平均消費電力を20 W以下にでき、単三乾電池10~12本でX線を発生できる。このX線源にX線イメージングシステムを組み合わせることにより、X線透過イメージングが可能である[5][6]。このシステムを完成させるために、乾電池から高電圧大電力パルスを発生する技術を試行錯誤しながら作り上げた。これが、次に述べるカーボンナノ構造体の電子放出特性の試験やX線発生装置にも応用でき、短期間での開発に繋がった。3.4 カーボンナノ構造体電子源のX線源への応用前述の超小型電子加速器の電子源は、熱電子放出の原理を用いているためにX線を発生する瞬間以外の時間もヒーター電源を入れておかなければならず、単三乾電池10本程度では4時間程度しか持たない。そのため、乾電池は非常用電源の性格が強く、真にいつでもどこでも使えるX線源とは言えなかった。この熱電子放出電子源の問題は、高周波電子加速方式に限らず一般的な可搬型X線源でも同様である。ヒーターやフィラメントを使わない高性能電子源があればこの問題を解決できるが、室温で電子放出を起こすカーボンナノチューブ(CNT)には、X線管のように強い電界をかけると構造が壊れすぐに劣化するという欠点があった[7]。そこで、CNTよりも高電界下での安定性が高い冷陰極電子源を探し、ある企業が開発したカーボンナノ構造体(CNX)電子源に注目した。この電子源は、形が針葉樹状で基板側に行くほど太くなっている構造を持ち、先端部はCNTと同じナノメートル構造で先端部に電界が集中しやすくなっており、高電界下でもCNTより安定していると考えられることから、X線源として有望であると予想された。X線出射口ターゲット加速管真空ポンプ電子銃図7 Xバンド超小型電子加速器本体部。

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