Vol.2 No.3 2009
50/74
研究論文:乾電池駆動可搬型高エネルギーX線発生装置の開発(鈴木)−240−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)囲内でできうる限りの対策を実施した[3]。その主な対策は、冷温水・空調システムの分散化と電子リニアックの大電力マイクロ波発生装置の更新である。冷温水・空調システムは、様々な実験条件下での消費電力を見積り、検討した結果、集中型よりも分散型のシステムの方が大幅な電力消費削減を期待できることがわかったことから、実験に応じて各部の空調・冷温水系をON/OFFできる分散型のシステムを導入した。Sバンド電子リニアックは、電子加速のための大電力マイクロ波を発生するクライストロン装置として建設当時最新の22 MW出力のものを8台使用していた。現在はその4倍近い出力を出すことができる80 MWクライストロンが開発されているため、3~4台をこれ1台に置きかえた。従来のクライストロンの消費電力は、低パルスレートでは安定しないために蓄積リングに供する場合でもやむなく50 pps以上のパルスレートで使用せざるを得ず、このために1台あたり約30 kW、3台で約100 kWの大きな消費電力であったが、新たに導入した80 MWクライストロンは、蓄積リングの入射により適した2 ppsで運転でき、平均の消費電力は10 kW以下と削減できた。この部分に限ればエネルギー消費は改修によって1/10になった。これによって、冷温水や空調系の能力も削減でき、大幅な省エネ化が可能になった。このほかにも上記原則に従い様々な対策を行い、図5のように施設全体として改修前に比べて約60 %の大幅な電力使用量の削減を実現した。さらにこの対策によって、電子リニアックの稼働時間も増えており、研究を効率的に行うことができるようになった。この対策に直接かかわることによって得られた省エネ化のノウハウは、超小型電子加速器・新X線源の低電力量駆動回路開発につながった。 3.2 Cバンド小型電子加速器の開発高強度低速陽電子ビームを用いた研究は、前述のSバンド電子リニアックを利用して実験を行ってきたが、この加速器は共用の加速器のために蓄積リングへの入射を行う場合に陽電子の実験を中断しなければならず、実験の時間が制限されていた。また、加速器が陽電子発生を前提として建設されたものではないため、陽電子の発生効率が悪いという問題もあった。これを解決するには専用の電子リニアックが必要で、限られた遮蔽スペース内に陽電子発生効率の良い電子リニアックを設置するには小型の電子リニアックが必要である。さらに、陽電子ビームを用いた実験では、検出器が飽和しないようにするため、加速器のパルスレートが高い方が望ましい。そこで、陽電子発生用の電子加速器として、加速管へマイクロ波を供給してから電界が一定になるまでの時間(フィリングタイム)が短くパルスレートを高く取れるCバンド電子加速器を選定し、そのシステムのコンポーネント開発を行った(図6)[4]。このCバンド電子加速器は、共振器のサイズが小さくなることから、加速管の径や導波管のサイズも従来のSバンド電子リニアックに比べて小さく小型化できるという利点がある。また、この加速器では、マイクロ波増幅管 (クライストロン)に供給する高電圧パルスの発生回路において、高電圧大電流の半導体スイッチを用いた新しい回路の開発を行い、18 cm×7 cm×7 cm程度の小型の半導体スイッチでCバンドクライストロンを駆動して約2 MWの大電力マイクロ波を発生し、電子ビームを加速することに成功している。これらのCバンド加速器の研究開発の過程で得られたマイクロ波の高周波化、高電圧半導体スイッチおよび高電圧パルス発生技術が新X線源を実現する上での技術的なベースになっている。3.3 乾電池駆動超小型電子加速器2000年代に入り、原子力発電所の配管の蒸気漏れ事故や工場プラント配管の老朽化による事故が増える傾向が出てきて、これらの検査を現場で行いたいという社会的なニー30 cm年度年間電力使用量 (kWh)年間稼働時間 (h)2003200820072006200520041×1063×1062×106001000200030004000図5 電子リニアック棟(産総研つくば中央2-4棟)年間電力使用量(棒グラフ)及び電子リニアック稼働時間(折れ線グラフ)。図6 Cバンド電子加速器初段部。
元のページ