Vol.2 No.3 2009
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研究論文:活断層からの地震発生予測(吉岡)−195−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)来の地震発生を予測しようという研究が、1970年代後半から始まった。手法としては、活断層をまたいで溝(トレンチ)を掘削し、活断層による地層のずれと地層の年代から過去の断層活動時期を明らかにしようとするものである(図1)。この方法はトレンチ調査法と名付けられ、1980年代に入り各地で行われるようになる。トレンチ調査法の普及により、活断層の過去の活動 (過去の大地震)についてのさまざまなデータが蓄積し、それらはやがて「古地震学」(Paleoseismology)という学問として集約される。これは、従来の地震学が現在の地震観測を中心としたものであったのに対し、地質学的な過去からの活動の繰り返しを解明することによって、将来の大地震発生時期の予測ができるという期待によるものである。つまり、活断層の研究が社会への活用、すなわち第2種基礎研究へと進化したことを示している。活断層の重要性が広く一般に印象づけられたのは、1995年の阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)であった。この地震が活断層の活動によるということがマスコミ等を通じて広まり、社会での「活断層」の認知度が急上昇することになった。それと同時に、この地震を契機にして政府に地震調査研究推進本部が設置され、全国的な規模で活断層調査が推進されるとともに、活断層の長期評価(確率予測)が開始された。これは、全国の主要断層帯(当時は98断層帯)のそれぞれについて、今後30年、50年、100年間に発生する地震の規模とその発生確率を評価し、各断層帯毎にその数値を公表するという世界的に見ても例のない画期的なものである。これにより、活断層研究の成果を製品化する一つの道が示されたと言える。2 活断層と地震規模の関係将来の地震を予測する際には、地震の場所および発生時期の予測とともに、その規模の予測が重要である。地震の規模は、その地震の際に活動する活断層の長さおよびずれの量に比例する。また1回のずれの量は活断層の長さに比例すると言われている。したがって、将来発生する地震の規模の予測については、その地震に関連すると考えられる活断層の長さを見積もる必要がある。活断層の長さと言っても、日本列島には非常に多くの活断層が、網の目のように分布しており、どこからどこまでを一つの活断層とするか、判断しにくいケースがしばしば起こりうる。さらに、これまでの調査研究から、ある活断層のある地点では、過去からほぼ同じような間隔で、ほぼ同じ規模のずれを繰り返していることが、地質学的、地形学的な証拠として多くの場所で報告されている。ところが、歴史的な地震の記録や詳細な地質調査により、ある地域で繰り返される地震の際に活動する活断層の範囲は、地震ごとに異なることがあり、必ずしも同一範囲で活動しているわけではないことがわかってきた。たとえば、1891年の濃尾地震(マグニチュード8.0)では、岐阜県と福井県にまたがる濃尾断層系が活動し、断層帯中部の根尾村(現本巣市)水鳥(みどり)では、高さ約6mの断層のずれが現れたことで知られている。この断層帯は、断層の分布形状からは、温見(ぬくみ)断層、根尾谷断層、梅原断層と、その他の小規模な活断層で構成される(図2)。1891年の地震の際は、これらのうち温見断層の西半分、根尾谷断層、それと梅原断層が同時に活動し、地表にずれが生じたことが記録に残されている[1]。ところが、この断層の過去の活動を調査すると、温見断層と根尾谷断層、さらに梅原断層では、過去の活動時期が岐阜名古屋福井020 km温見断層根尾谷断層36.0N137.0E琵琶湖梅原断層図1 活断層のトレンチ調査の例(福井県大野市の濃尾断層帯温見断層)この活断層は1891年の濃尾地震で活動したことが知られている。地表の段差が1891年にずれたもの。下の地層(より古い地層)ほど大きく上下に食い違っていることから、断層のずれが繰り返し累積していることが読み取れる。図2 濃尾断層帯とその周辺の活断層の分布太線が1891年濃尾地震の際に活動した断層。破線は推定断層。

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