Vol.2 No.3 2009
49/74

研究論文:乾電池駆動可搬型高エネルギーX線発生装置の開発(鈴木)−239−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)X線透過像であり、コンセントの電極の開き具合などを認識できる。しかしながら、2 J程度では照射面積が広い場合細かい構造の部分でノイズが目立ち解像度が不十分である。図4は、20 Jの電力量を高電圧発生回路に供給して撮影したX線透過像であり、ノートパソコン内のLSIチップなどが0.2 mm以下の解像度で撮影できる。また、直径10 cm程度のセラミック製碍子内の電極も鮮明に見える。したがって、20 J程度のエネルギーがあれば、様々な物の高精細X線透過像を撮ることができ実用的と言える。この20 Jの電力量を1ショットとしてX線透過像の撮影を行った場合、単三型ニッケル水素電池(容量:2000 mAh)1本を電源として100ショット以上(2本なら300ショット以上)の透過像撮影ができることを確認している。また、X線管の寿命は、1ショット50 Jの電力量で106ショットのX線発生を行っても劣化がみられず、可搬型のX線源としては問題無いことを確認している。さらに、このX線管の最大放出電流は50 mA以上で、短時間に出力の高いX線を発生させることも可能である。これによって、1ミリ秒以下の短時間露光もできる。この高出力特性を利用すれば、通常のX線透過像撮影だけでなく、高出力X線が必要なコンピュータートモグラフィー (CT)撮影用のX線管としても使用できると考えられる。X線源の技術をラジオにたとえるなら、従来のX線源は真空管式のラジオで、可搬するにしてもバッテリーを常に気にしなければならなかったが、カーボンナノ構造体を用いたX線源はトランジスタラジオに匹敵し、X線源の可搬性が飛躍的に高まる。これにより、現場でのX線非破壊検査・X線診断が容易になり、X線の検査法において新たなイノベーションが期待される。 3 成果実現までの経緯筆者らは、これまで電子加速器の開発及び利用研究を行ってきており、2章で述べた新X線源の開発は、産総研が有する可搬型超小型加速器・X線源技術と、企業が開発したカーボンナノ構造体電子源の技術を統合することによって実現したものである。さらにこの超小型加速器・X線源の技術は、電子加速器の省エネルギー化、電子加速器の小型化などが技術のベースとなっている。以下に、新X線源開発の元となった各要素技術について述べる。3.1 電子加速器施設の省エネルギー化筆者らは、産総研の最大エネルギー400 MeVのSバンド電子リニアック(線形加速器)の管理・運転とそれを用いた研究を行ってきている。この加速器は、1979年に完成し、放射光電子蓄積リングTERAS、自由電子レーザー専用電子蓄積リングNIJI-IV、材料評価実験用高強度低速陽電子ビーム源などに使用されてきている[2]。この加速器施設では、2005年度に老朽化した空調等の改修に合わせて施設全体の抜本的な省エネ化対策を実施した。省エネ化対策前のこの施設の電子リニアック稼働時の電力は、瞬時600 kW以上、年間の電力使用量は約2.5 GWh以上であった。この電子リニアックの電子蓄積リングへの電子入射において真に必要なビーム電力を見積もってみると、 320(MeV) × 100(mA )× 1(µs) × 2(pps) = 64 (W) と実際に加速器を稼働して消費している電力の0.01 %しかない。また陽電子の実験の場合は、70 (MeV) × 100 (mA) × 1(µs) × 100(pps) = 700(W)と実際の消費電力の数100分の1である。この非常に低い効率にはいくつかの要因があるが、第一の要因として元来この電子リニアック及びそれに付随した施設の空調・冷温水系は様々な実験に対応するため数10 kWの大出力電子ビームの発生も可能なように設計され、それが蓄積リングへの入射のような低パルスレートのモードや陽電子の実験のような低エネルギーモードに最適化されていないことがあげられる。この問題の解決には、電子リニアック本体部だけでなく、空調や冷温水系も含めた抜本的な対策が必要である。そこで、長年蓄積した加速器技術と空調・冷温水・電源系統の最新技術を組み合わせた省エネ化対策を練った。この省エネ化対策を実施するにあたって、以下のような省エネ化の基本原則を設定した。 1) エネルギーを必要な量だけ使用する 2) エネルギーを必要な時間だけ使用する 3) エネルギーを必要な場所だけ使用する 4) 最新のエネルギー効率の高い技術を導入するこの基本原則に基づいて改修や新規導入する機器の仕様を決めるには、いつ、どこで、どれだけエネルギー(電力)が消費されているかを把握する必要がある。そこで、各部の消費電力を調査し、改修対策に割り当てられた予算の範10 cm図4 投入電力20 JのX線透過像。(左)ノートPCのX線透過像。(右)テスト電極付アルミナ碍子のX線透過像。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です