Vol.2 No.3 2009
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研究論文:乾電池駆動可搬型高エネルギーX線発生装置の開発(鈴木)−238−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)2 乾電池駆動可搬型高エネルギーX線源X線は、陰極から放出された電子ビームを加速し金属ターゲットに入射することによって発生させることができる。従来のX線管は、陰極からの電子放出はフィラメントあるいはヒーターによる熱電子放出現象を利用しており、陰極の温度が一定になるまで待たなければならない、ヒーターに電力を供給しなければならずX線を発生していない時でも電力を消費する、といった問題があった。特に、可搬型のX線源では、この問題によって利便性が損なわれていた。筆者らが開発したカーボンナノ構造体を用いたX線源[1]は、このヒーターやフィラメントが不要で、従来のX線源と同程度以上のX線を出力することができ、予熱やエネルギー消費の問題を解決できる。開発したX線管に用いたカーボンナノ構造体は、共同研究先の企業が開発したもので、炭素で構成されるグラフェンシートが針葉樹状の形状をしていて、先端部はナノメートルサイズの中空構造で基板側に行くほど太くなっている構造のため、機械的に安定で先端部に電界が集中しやすく、室温で100 mA/cm2以上の高い電流密度の電子放出が可能である。開発の当初は、このカーボンナノ構造体を電子源、モリブデンメッシュを引き出し電極、金属板をターゲットとしたX線管を試作したが、この構造では、メッシュ電極が高温になり、ガスを出して異常放電しやすいという問題があった。カーボンナノ構造体は、放電によってそのナノ構造が損傷し、電子の放出特性が劣化するため、異常放電が多いことは致命的な欠点である。そこで、この欠点を克服するため、加速器開発に使われているシミュレーションコードを用いて、メッシュ電極を用いず、電子ビームがターゲットに効率的に集束するような構造のX線管を設計し、試作した。このX線管は、陰極の電子源に負の高電圧、陽極のターゲットに正の高電圧を印加する双極型のX線管である(図1)。カーボンナノ構造体を用いたX線管の製作工程では、エージングと呼ばれる放出電流の安定化処理を行うが、この段階での異常放電は電子源にダメージを与えることから、放電を起こさずに放出電流の安定化処理を行えるような処理条件を試行錯誤により探し出した。この結果、熱電子放出型のX線管にも引けをとらない高出力X線を発生できる冷陰極X線管が得られた。このX線管は、ヒーター・フィラメントがないため、特に可搬型のX線検査の用途でその特徴を発揮できると考えられることから、図2の構成の乾電池駆動可搬型X線発生装置を完成させた。このX線発生装置は、単三乾電池1個を電源として蓄電回路に一時的に電力を蓄積し、X線発生可能な電力量が蓄積したら高電圧発生回路で高電圧を発生してX線管を駆動しX線を発生する。高電圧発生回路では±50 kV以上の電圧を発生し、100 keV以上のX線を発生できる。このX線管は、X線の発生時以外はエネルギー消費をほぼゼロにできるため、エネルギー効率が極めて高い。また、予熱が不要ですぐにX線を発生でき、可搬型のX線源として利便性が高い。さらに、電源を含めた全重量を5 kg以下にでき、持ち運びが容易である。図3は、図2の蓄電回路から2 Jの電力量を高電圧発生回路に供給してX線管を駆動し撮影したテーブルタップのターゲット陽極陰極カーボンナノ構造体電子源昇圧回路蓄電回路高電圧発生回路X線管X線図1 カーボンナノ構造体電子源を用いたX線管。図2 乾電池駆動X線発生装置外略図。図3 (上)被検体:テーブルタップ。(下)乾電池駆動X線源により撮影したX線透過像。投入電力2 J。
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