Vol.2 No.3 2009
45/74

研究論文:ガス中微量水分測定の信頼性の飛躍的向上(阿部)−235−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)本研究の成果を使うことにより、すでに市販されている微量水分測定器の多くのものでスペックが満たされていないと言うことが明らかになっています。国家計量標準がしかるべく整備されていない場合、大きな社会的損失が起きうるという例と思いますが、このことから我々はどのような教訓を得ることができるでしょうか。回答(阿部 恒)従来型の市販計測器の件につきましては、国家標準がまだ整備されていない状況で、計測器メーカー・販売業者が計測現場からのニーズに応えようと活動し、その状態が長年続いて生じた結果と理解しています。標準が整備されていない状況で起きた重大な事例として受け止める必要があり、標準が持つ社会的重要性や社会に与えるインパクトを改めて強く意識する必要があると感じました。他国の微量水分標準の整備状況や、拡散管法による標準実現に不可欠だったCRDS微量水分計の販売開始時期を考えますと、2001年以前に微量水分標準を確立することは技術的に困難だったと考えていますが、このような状況でも理想的には、標準整備がまだできない技術的な理由や、標準がない状態で微量水分測定を行った場合の測定結果の信頼性について、ユーザー、計測器メーカー・販売業者、標準研究機関の研究者の間である程度共通の認識が持てていれば良かったかと思われます。これは微量水分計測に限らず、似たような状況にある他の量の計測についてもあてはまる話です。どうすれば3者の間で大きく異ならない認識を持てるようになるか、特に難しいのはユーザーからの需要に対して、研究者側が技術的に否定的な考え(必ずしも常に正しいとは限りませんが)を持った場合と考えられます。そのような否定的な事柄について発表や議論する機会をどのようにして得れば良いのか?通常の学会発表や学術論文での発表で、否定的な事柄を主題目として取り上げるのは容易ではありませんし、仮に行ったとしてもユーザーや計測器メーカー・販売業者にまでその情報が伝わる可能性は高くありません。技術的な問題点が明らかになっていれば、研究シナリオの1つとしてシンセシオロジーでの発表が今後は可能かも知れませんが、それとて他に成功したシナリオがない限り、非常に難しいかと思われます。現在産総研計量標準総合センターで行っている計測クラブや研究室見学などの機会を通じて、ユーザーや計測器メーカー・販売業者と意見交換を行い、計測に関する理解を互いにより深め合っていくことが1つの解決法と考えられますが、それ以外には今のところ特に有効な方法を思いつきません。本件からどのような教訓が得られるのか、正直なところ、筆者もまだ十分整理できていない状況です。ただし、微量水分測定が関係した過去の「社会的損失」については次のように考えています。微量水分標準が確立される以前は、微量水分計の測定能力を客観的に調べる方法がなく、そのことがはっきり分かったのも微量水分標準が確立された後のことです。そのような状況を考慮しますと、現在から過去の測定を振り返り、それらによって社会的損失が生じていたと言ってしまうのは、やや厳しい見方に思えます。過去の測定でも当時は特に大きな問題が(少なくとも表面上は)生じていなかったのですから、過去に社会的損失があったというよりは、むしろ産業現場等における微量水分制御にまだ改善の余地あることが最近になって分かったと前向きに捉えるべきではないでしょうか。議論5 拡散管法の有機標準ガスへの適用可能性質問・コメント(小野 晃)本研究では拡散管法を水に適用して微量水分の標準を作ったわけですが、他の有機物質などに適用すれば、それらの物質の濃度値が付いた標準ガスを作ることができるようにも思います。その適用可能性をどのように考えますか。回答(阿部 恒)拡散管法を一次標準法として開発に成功したのは産総研が最初になりますが、元々この方法は有機物質も含めた様々な物質の低濃度標準ガスを作る手段として古くから利用されていました(Crit. Rev. Anal. Chem. 2005, vol 35, page 31-55)。実験温度である程度の蒸気圧を持つ物質、マトリックスガスの溶解が問題にならない物質など多少の制限はありますが、基本的には水以外の物質に対しても適用可能です。特に、吸着性の高い物質や不安定で長期の保存が難しい物質の場合、標準ガスを高圧容器に充填して供給する方法では、使用時における信頼性の確保が困難なため、拡散管法のように連続的に標準ガスを発生させる方法(動的方法)が有効と考えられます。拡散管法は簡易な標準ガス発生法として、国際規格(ISO 6145-8)や日本工業規格(JIS K 0225)でも規定されています。ただし、本研究で明らかにされたように、極めて小さな蒸発速度が必要となる微量な濃度領域においては、磁気吊下天秤を使わずに蒸発速度の測定を行った場合、この方法では信頼性の確保が難しいことに注意しておく必要があります。議論6 不確かさの目標値の設定質問・コメント(五十嵐 一男:産総研生産計測技術研究センター)2章において、霜点−100 ℃付近で相対標準不確かさの目標値を11 %(霜点で0.5 ℃に相当)と定めたことの理由として、NPLの当時の目標が霜点−95 ℃での標準不確かさが0.5 ℃であったことを参考にしたと述べられています。実際には、多くの不確かさの要因を潰していった結果として3 %程度に収める素晴らしい成果に結びついていますが、水蒸気発生方式も異なり、それに伴う種々のプロセスも異なるなかで11 %に設定したことの妥当性についてお教えください。回答(阿部 恒)拡散管法の採用によって、不確かさが霜点発生法に比べて大きくなるようでは、この方法を選択した意味が失われますので、まずは霜点発生法での目標値を参考にしました。また、拡散管法ではゼロガス中の残留水分と吸着・脱離水分が大きな不確かさ要因になると予想していましたが、ゼロガス生成に使う水分除去装置(ガス精製機)の性能は高性能機種の場合、大体どのメーカーの製品カタログでも残留水分が1 nmol/mol以下になると記載されていました。吸着・脱離水分による不確かさもおよそこのレベルと仮定しますと、この2つを合成した不確かさは1.4 nmol/mol(12+12 1.4)になり、これは14 nmol/molでは10 %に相当します。これ以外の不確かさ成分も当然含まれることを考慮しますと、11 %はそれほど簡単に実現できる数値だとは当時は思っていませんでした。ちなみに、NPLは現在、霜点発生法による標準発生の下限を霜点−90 ℃までとしており、霜点−90 ℃における標準不確かさを0.2 ℃(約3.7 %)と報告していますので、NPLが最初に設定した霜点−95 ℃での標準不確かさの目標値0.5 ℃は、今となっては少々大き過ぎた感じがあります。議論7 発生槽内と拡散管セル内の水の温度差の原因質問・コメント(五十嵐 一男)3.3節に不確かさの評価がなされており、発生槽内の温度と拡散管セル内の水の温度との間に相違があったことに起因することが述べられています。温度差が生じる原因として流す窒素ガスの流量に対応した温度制御および拡散管セル材のSUSを用いていることの熱伝導度の低さなどにもあるように思います。もし、そのようなことも検討されたのであれば、より詳細な検討の証左にもなりますので記載いただければと思います。回答(阿部 恒)温度差が生じた原因の推測について本文中に書き加えました。室温変動が測定結果に影響を及ぼす理由を検討することは、不確かさの評価の正しさ、すなわち不確かさの不確かさ(ここでは実験から決定した感度係数の不確かさを意味します)を考える上で重要な問題なのですが、これに関する実験、ご指摘にありました流量依存性を調べる実験などはまだ行っておりませんので、はっきりとした理由はまだ分かりません。しかし、感度係数の不確かさについては、文献[23]

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です