Vol.2 No.3 2009
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研究論文:ガス中微量水分測定の信頼性の飛躍的向上(阿部)−234−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)対測定で簡便に標準が設定できるというようにはできないでしょうか。回答(阿部 恒)半導体製造分野では、微量水分標準が必要とされている窒素以外の重要なマトリックスガスとして、水素、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア等があります。これらのガス種についても拡散管法を利用してそれぞれ微量水分標準を確立して校正サービスを行うことは可能だと思いますが(ただしアンモニアなど水への溶解度が高いガスは工夫が必要)、開発コストやユーザーの利便性を考えますと、あまり現実的な方法とは思えません。それよりはご質問にもありました相対測定(変換係数)の手法の方が、実現の可能性が高いと考えています。これについては、次の質問の回答の後半をご参照下さい。議論3 キャビティリングダウン分光法の種々のマトリックスガスへの活用質問・コメント(小野 晃)拡散管法とキャビティリングダウン分光法とでは測定の絶対値が良く一致しているように見えます。このことは、レーザー光の波長に対して水分子の吸収断面積の絶対値があらかじめ精度良く求まっていたということでしょうか。吸収断面積は温度依存性が大きいように述べられていますが、マトリックスガスの種類の違いによる変化はどのくらいと考えられますか。もしマトリックスガス依存性が小さいとすると、拡散管法でキャビティリングダウン分光装置を一度校正しておけば、それを他の種類のマトリックスガスにもそのまま使えるということになりませんか。回答(阿部 恒)水分濃度決定のためモニターしている水の吸収線の強度については、今までに多くの研究報告がなされていますが、それらの値にはばらつきがあります。例えばある文献で報告された値と、比較のため同じ文献で引用されている別の報告による値とでは6 %程度の差があります(JQSRT 2005, vol 94, page 51-107)。同様に別の文献では差が最大で20 %以上あります(JQSRT 2002, vol 75, page 493-505)。したがって、あらかじめ精度よく決まっていたというよりは、標準値との一致が比較的良い値が今回使用した装置では選ばれていたとの印象をもっています。本研究で得られたような結果がフィードバックされていくことで、測定に用いる吸収断面積の不確かさが小さくなり、キャビティリングダウン分光装置を使った微量水分測定の信頼性がさらに高まっていくことを期待しています。吸収断面積のマトリックスガス依存性は決して小さくはなく、例えば、窒素と酸素とではこの吸収線の場合約2倍も値が異なります。しかし、この関係は温度変化の小さい範囲では常にほぼ一定と見なせますので、これらの間の変換係数を測定温度付近で一度正確に決定しておけば、その後は装置の校正は窒素に対してだけ行い、酸素中の微量水分測定の場合はその変換係数を用いることで測定が可能となります。この方法を使えば、変換係数が小さな不確かさで得られるガスについては、そのガスをマトリックスとした微量水分標準がなくても、測定の信頼性を確保することができます。またユーザーにとっても校正の手間が省け、管理コストも低減できますので、この手法は窒素以外のガス中の微量水分測定に対する有効な方法と考えています。ただし、水の吸収線と同じ周波数領域にマトリックスガスの吸収線が存在する場合(NH3など)は、その影響を取り除き水分濃度に関する情報を引き出す解析技術がさらに必要となります。ガスの種類によっては、マトリックスガスの吸収が強すぎるなどの理由で、全く測定できない場合も考えられますので、この方法は全てのガス種について有効とは言えません。変換係数を決めるための実験上の困難さや不確かさなども考慮しながら、どのようなガス種について有効かを検討する必要があります。議論4 国家計量標準と市販計測器質問・コメント(小野 晃)査読者との議論 議論1 氷の蒸気圧式の信頼性質問・コメント(小野 晃:産総研)外国の多くの標準研究所では、Sonntagの氷の蒸気圧式を用いて微量水分の国家標準を作っています。そもそもSonntagの式を導出するときには、国際単位系にトレーサブルな形で微量水分量の絶対測定を行っているはずですが、どのような方法で行っているのでしょうか。またSonntagの式には不確かさが付いているのでしょうか。拡散管法を用いた本研究では国際単位系にトレーサブルな形で微量水分量の絶対測定を行っています。この方法を用いて、Sonntagの式の妥当性を検証したり、新たな氷の蒸気圧式を不確かさ付きで導出したりする可能性はいかがですか。回答(阿部 恒)外国の多くの標準研究所では、霜点発生法に基づいて霜点が一定となるガスを発生させていますので、国際単位系へのトレーサビリティは温度となります。このガス中の水分量を物質量分率などで表す時やガスの圧力を変化させて霜点を変える際の計算にSonntagの氷の蒸気圧式を使っています。Sonntagの氷の蒸気圧式は1990年の論文[8]で発表されましたが、これはそれ以前にあったWexlerの氷の蒸気圧式 (J. Res. Nat. Bur. Stands 1977, vol 81A, page 5-20) を、現在の国際温度目盛りであるITS-90に基づいて再計算したものです。Wexlerの式は1977年当時の国際実用温度目盛りであるIPTS-68に基づいて計算されていました。これらの式はともにClausius-Clapeyronの式を積分することで得られています。計算に必要となる気体定数や水蒸気の圧縮係数などは、科学技術データ委員会(CODATA)の推奨値や過去の文献等で報告された値を使っています。計算の詳細については上記Wexlerの論文をご参照下さい。 Sonntagの式の不確かさは、−100 ℃~+0.01 ℃の範囲において、相対標準不確かさ0.5 %未満と報告されています[8]。実験データとの比較も行われていますが[9]、微量水分領域(霜点が約−75 ℃以下)では一致が良くありません。Sonntagの式の妥当性の検証については、現在進行中の国際比較を通じて、産総研の拡散管法による実験結果とNPLおよびNISTの霜点発生法に基づく実験結果を比較することで、ある程度は可能と考えています。これは上で述べたように、霜点発生法に基づく実験結果を比較のため物質量分率に変換する際にSonntagの式を使うからです。ここである程度と言ったのは、特に検証の必要性が高い微量水分領域では、国際比較における不確かさ(比較を行う2つの標準それぞれが持つ固有の不確かさと比較の際に生じる不確かさの合成)の方がSonntagの式の不確かさより大きいため、これだけでは検証が十分とは言えないからです。この国際比較においては、産総研の標準とNPLおよびNISTの標準との同等性が不確かさの範囲内で確認できなかった場合においてのみ、その原因の1つとしてSonntagの式の妥当性を疑う形になります。拡散管法を利用した氷の蒸気圧式の導出については、拡散管法で発生させたガスの霜点測定を行うことで可能となりますが、霜点測定の精度および拡散管法の現在の不確かさを考慮しますと、残念ながら意義ある結果を得るのは難しいと考えられます。氷の温度と蒸気圧の同時測定の実験など、他の方法による導出の方が今のところ可能性としては高いと思っています。議論2 マトリックスガスが窒素以外の場合の校正質問・コメント(小野 晃)本研究ではマトリックスガスとして窒素を用いた拡散管法による微量水分標準を確立したと思いますが、マトリックスガスとしてその他の種類で重要なものには何があるでしょうか。またその他の種類のマトリックスガスに対してはそれぞれ拡散管法で微量水分標準を確立することが必要になるのでしょうか。1種類のマトリックスガス(例えば窒素)で標準ができれば、他の種類のマトリックスガスに対しては、相

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