Vol.2 No.3 2009
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研究論文:ガス中微量水分測定の信頼性の飛躍的向上(阿部)−228−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)定値をとると仮定し、NとFの値を変えることでxwを変化させ、これをVUVまたはAPIMSで測定して指示値を記録し、NとFの値と指示値の変化量の関係から検量線を作成する方法である。しかし、微量水分領域では、拡散管セルの入れ替え(Nを変えるため)後の乾燥パージ(残留水分除去)に長時間を要するため、一連の実験期間内のVUVやAPIMSのベースラインドリフト・感度ドリフトが信号強度に比べて無視できず、また、どの程度の乾燥パージ時間を設ければ入れ替え前のNbの値と同じと見なせるのか、その後は本当にNbを常に一定値と見なしてよいのかも不明のため、この方法では信頼性の高い検量線作成が難しいことが研究を進めていくうちに分かってきた。微量水分領域では吸着・脱離水分とゼロガス中の残留水分による不確かさが全体の中で大きな割合を占めると予想していたので、Nbとxbの測定は装置開発をする上で特に重要な項目と考えていたが、これをVUVとAPIMSだけで行うのは問題ではないかと、研究を進めていくうちに次第に考えるようになった。ちょうどその頃(2002年頃)、キャビティリングダウンレーザー分光法(CRDS) [14]-[17]と呼ばれる原理に基づく新しい微量水分計が市販されるようになっていた。これは高反射率ミラーで構成された光学キャビティ内にレーザー光を閉じこめ、レーザー光を何度も往復させることで長い実効光路長を得て検出感度を高める方法で、特に近年になって飛躍的に高感度化された吸収分光法である。CRDS微量水分計は水の吸収断面積と測定データから直接xwを求めることができるので、検量線を作らなくとも微量水分測定が可能である。この特長はVUVまたはAPIMSに比べて有利であると考えられたため、すぐに装置の性能に関する情報収集と導入の検討を始め、2003年の早い時期に導入を行った。装置の製造元発行の校正証明書によると、米国標準技術研究所(NIST)へのトレーサビリティが確保された参照標準器との比較により、0 nmol/mol(ppb)~1000 nmol/mol(ppb)の範囲で指示の正確性が確認されているとのことであった。こちらでも独自に指示の正確性の確認を行うため、産総研の微量水分発生装置で発生させた値の分かった微量水分(標準値)をCRDS微量水分計で測定し(指示値)、標準値と指示値の比較を行った[5]。図8に標準値との指示値の差を相対値で示す。また、CRDS微量水分計の内部機能を使って水の吸収スペクトルを測定し、吸収線の解析からもxwを求めた(解析値)。図9にスペクトルの測定例を示す。図9の吸収線は全て水の振動回転遷移で、解析には図中で最も強い吸収線(1+3バンドの202←303 遷移)を用いた。CRDS微量水分計の指示値もこの吸収線のピーク強度から決定されている。これら独立に得られた3つのxwは20 nmol/mol(ppb)~600 nmol/mol(ppb)の範囲で11 %以内の差で一致し、CRDS微量水分計がNbやxbの測定に十分使用できる装置であることが分かった。そして、この装置を使って研究を進めた結果、xb<0.15 nmol/mol (ppb)と Nb<6 nmol/hを達成する方法を見いだし、 xw>> xbと N >> Nbの条件を満たす技術が確立された。この研究の過程でCRDS微量水分計が高性能な微量水分計であることも明らかになった。3.2.3 乾燥ガスの流量測定乾燥ガス(窒素)の流量Fは熱式質量流量計を用いて制御・測定されており、トレーサビリティの確保にはこの流量計を校正することを、そしてその校正には計量法に基づいて登録された校正事業者(JCSS)[18]で校正サービスを受けることを当初考えていた。しかし、最も小さい不確かさで校正が可能なJCSS校正事業者に2004年後半に問い合わせたところ、熱式流量計については校正実績がまだ無く、すぐに校正を行うことは難しいとの回答を得た。また当時、熱式流量計の精度保証はフルスケールに対して1 %程度が普通であり、設定流量が小さい領域では不確 物質量分率 / (nmol·mol-1)差の相対値 / %00102006004005-10-5 * 71757185718005波数 / cm-1残差×5水の振動回転遷移xw / (nmol・mol-1)標準値:72.1指示値:69.2解析値:70.4Absorption coefficient( )/(10-8×cm-1)α図8 標準値と指示値の差(相対値)[(指示値−標準値)÷標準値]×100を示している。図9 水の近赤外吸収スペクトル図中の吸収線は全て水の振動回転遷移に帰属される。水の物質量分率は図中で一番強い1+3バンドの202←303遷移を使って決定している(アスタリスクで示した吸収線)。
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