Vol.2 No.3 2009
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研究論文:ガス中微量水分測定の信頼性の飛躍的向上(阿部)−227−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)モル質量(18.02 g/mol)で割ることで求まる。水分蒸発速度の測定については、3.1で述べたように、磁気吊下天秤を使うことを計画した。磁気吊下天秤は、図6に示されるように、発生槽内の拡散管セルを、磁力によって外部の電子天秤に吊り下げられる構造をしている。これにより、蒸発によるセルの質量減少速度(水分蒸発速度)を、水蒸気発生を中断させることなく、連続的に測定することができる。産総研で導入した磁気吊下天秤は、微量水分発生槽の一部にもなるので接ガス面は電解研磨とし、12 g程度の質量の拡散管セルの質量変化を1 µgの分解能で測定でき、国際単位系へのトレーサビリティ確保のため外部分銅による校正も可能とするなど、微量水分標準の開発のための特別仕様としている。図7(a)は磁気吊下天秤を使った水分蒸発速度の測定例である。5.1 µg/hの小さな水分蒸発速度でも十分測定が可能であることが分かる。図7(b)は、磁気吊下天秤を使わずに測定した例である。これは拡散管セルの質量測定の度に発生槽を大気開放し、発生槽内にあるセルを発生槽外の上方にある電子天秤にワイヤーで吊して測定した。拡散管セルは図7(a)の実験と同じものを使っている。実験の詳細については文献[12]を参照されたい。この場合でも6.6 µg/hの水分蒸発速度が測定されているので、時間が掛かることを認めればこの方法でもいいように思えるかも知れない。実際、このように一度水分蒸発速度を決定しておき、その後はその値を使って、簡易な微量水分標準として拡散管法が利用される場合がある。しかし、理論値との比較から図7(b)の実験には問題があったことが分かった。拡散管法では理想的な拡散現象を考えた場合、水分蒸発速度は拡散管の内径、長さ、発生槽内の圧力、セル内の水の温度から計算によって求めることができる。計算方法の詳細は文献に譲るが[5]、図7(b)の実験の場合、理論値が4.1 µg/hとなり測定値との間にやや差がある。この差は圧力、温度などの不確かさを考慮しても説明できない。一方、磁気吊下天秤を用いた図7(a)の実験では、理論値が5.1 µg/hとなり測定値と一致する。これが偶然でないことを確認するため、拡散管の内径、発生槽圧力、発生槽温度を変えた実験を行ったが、磁気吊下天秤を使った測定では、理論値と測定値が不確かさの範囲内で一致することが分かった[5]。この結果によって、10 µg/hレベルの水分蒸発速度を信頼性高く測定するには、磁気吊下天秤の導入が極めて有効であることが実証された。この結果からもう1つ分かったことは、開発した発生装置の水分蒸発は拡散現象でよく説明できると言うことである。これはつまり、温度と圧力の制御だけで(2)式のNの安定化が十分可能であることを意味する。これも実験によって確認され、精密な温度・圧力制御によって、相対標準不確かさ0.6 %以内での安定性が実現されている[5]。Nの測定の技術開発が、Nの安定化の技術開発にもつながったことになる。3.2.2 吸着・脱離水分、ゼロガス中の残留水分の測定xw ~14 nmol/mol(ppb)、N~780 nmol/hでも(1)式のxw>> xbとN >> Nbの条件を満たす装置を開発するには、Nbやxbの測定が不可欠であり、それには高性能な微量水分計が必要となる。これについては当初、計量研究所で開発した真空紫外蛍光微量水分計(VUV)[13]と2000年に導入していた大気圧イオン化質量分析計(APIMS)[3]の使用を考えていた。VUVは真空紫外光を水分子に吸収させ電子励起状態のOHラジカルを生成させ、その蛍光を観測することで微量水分の検出を行う装置である。APIMSは試料ガスをコロナ放電によって大気圧下でイオン化させ、差動排気を用いてこれを質量分析計に導入し、ガス中の微量物質(この場合は微量水分)を検出する装置である。VUVおよびAPIMSも微量水分領域で十分な感度があるが、それ自体は目盛りをもっておらず、標準を使って検量線を作成する必要がある。これについては開発中の拡散管方式発生装置で発生させた微量水分を使い、標準添加法で作ることを考えていた。すなわち、(1)式のNbとxbが一拡散管セルガス中微量水分電磁石乾燥ガス(N2)コントローラー位置センサー電子天秤磁石(a)磁気吊下天秤あり(b)磁気吊下天秤なし測定時間 / h測定値 : 6.6 µg/h理論値 : 4.1 µg/h測定時間 / h測定値 : 5.1 µg/h理論値 : 5.1 µg/h質量減少量 / µg質量減少量 / µg000050100150200-1600-1200-800-400-300-200-100204060図7 拡散管セルの質量減少の測定データ図6 磁気吊下天秤による拡散管セルの質量減少測定の概念図

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