Vol.2 No.3 2009
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研究論文:ガス中微量水分測定の信頼性の飛躍的向上(阿部)−226−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)の結果不確かさを大きく取らざるを得なくなる。拡散管法ではこれらの問題を回避できる。次に、発生ガス中の水の物質量分率の決定に関しては、霜点発生法は氷の蒸気圧式と水蒸気増加補正係数が必要になるが、拡散管法は水分蒸発速度と乾燥ガスの質量流量の測定だけから決定できるので、国際単位系へのトレーサビリティが明確でより直接的な方法と言える。氷の蒸気圧式としてよく使われているSonntagの式[7][8]は−100 ℃までしか有効ではないため、霜点発生法では−100 ℃以下の領域はSonntagの式を使う限り水の物質量分率の決定ができない。さらに水蒸気増加補正係数については−35 ℃以下では実験の報告がなく、この温度以下の領域では信頼性が低いとの指摘がある[9]。拡散管法では、蒸気圧式や水蒸気増加補正係数を必要としないので、これらは全く問題にならない。一方、拡散管法の短所としては、水分蒸発速度測定の必要性が挙げられる。拡散管方式による14 nmol/mol(ppb)の微量水分発生では、水分蒸発速度は約14 µg/h (780 nmol/h)と極めて小さな値となるので(乾燥ガスを窒素とし、0 ℃・101.325 kPa換算での流量20 L/minの場合)、これをいかに不確かさを小さく測定できるかが鍵となる。他に、ゼロガスの問題がある。拡散管法では乾燥ガスの中に水分が残留していると、それが不確かさとなるため、これを限りなくゼロに近づけたゼロガスと呼ばれる乾燥ガスを準備する必要がある。さらに、拡散管法は今まで微量水分の一次標準として確立された実績がなかった。すなわち、標準確立に必要な知識・経験・技術の蓄積が乏しく、装置設計や不確かさ評価法の開発を、ほとんどゼロに近い状態から始める必要がある。以上の拡散管法、霜点発生法それぞれの長所・短所を十分に踏まえた上で、既に述べたように、産総研は拡散管法を選択した。この理由として第一に、霜点発生法における飽和の実現・確認の問題を重要視したことが挙げられる。産総研(当時:工業技術院 計量研究所)では1999年頃から微量水分標準の開発の検討を始めたが、この頃他国の研究機関では、既に霜点発生法を中核とした微量水分標準の開発が進められていた。しかし、霜点−100 ℃付近の微量水分発生で不確かさ評価の報告まで行われた研究例は、筆者の知る限りその当時まだ無く、その主な理由を−100 ℃付近での飽和の実現と確認の困難さにあると考えていた。第二に、今後の微量水分計測の方向性があった。国際半導体技術ロードマップ2000年度版[10]では、要求される水分制御が当時既に霜点−100 ℃以下となっており、今後さらに低いレベルでの制御が必要になると報告されていた。この領域を霜点発生法で対応した場合、蒸気圧式や水分増加補正係数の信頼性が問題になると考えた。第三に、磁気吊下天秤と呼ばれる新しい天秤の存在が挙げられる[11]。磁気吊下天秤は1990年代の前半に機能性・利便性の高い製品が市販されるようになり、90年代の半ばから後半にかけて、これを使った研究報告が多くなされるようになった。そして2000年頃にはその性能の高さが実証されてきていたので、拡散管法で問題となる水分蒸発速度測定は、磁気吊下天秤を導入することで解決できると考えていた。最後に、計量学(メトロロジー)を専門とするものとして、拡散管法の国際単位系へのトレーサビリティの明確さが実に魅力的であったことも理由として挙げておく。3.2 一次標準器の開発拡散管方式微量水分発生装置で発生するガス中の微量水分の物質量分率は次式で与えられる: (1)ここで、xw: 発生させたガス中微量水分の物質量分率 [mol/mol]N: 単位時間あたりに拡散管から蒸発発生する水分の物 質量 [mol/h]Nb: 吸着・脱離により単位時間あたりに移動する水分の 物質量 [mol/h]F: 単位時間あたりの乾燥ガスの流量 [mol/h]xb: 乾燥ガス(ゼロガス)中に含まれている残留水分の物 質量分率 [mol/mol]である。拡散管法による一次標準器の開発方針を(1)式で簡単に説明すると次のようになる:(1)式右辺の各物理量の測定方法を確立する。xw~14 nmol/molとN~780 nmol/hにおいて、xw>>xbとN>>Nbの条件を満たすように装置を開発し、 (2)と表せるようにする。NとFを安定化させる(ばらつきを小さくさせる)。NとFを不確かさを小さく測定する技術を開発し、(2)式を使って標準値xwを決定できるようにする。ただし、実際の開発はこの順序では行われていない。また、開発すべき技術項目は大小含めて多数あり、そのうちの1つの技術が高まると、他の技術の見直しが必要になるなど、開発は決して一方向に進んだものではなかった。3.2.1 水分蒸発速度の測定(2)式のNは水分蒸発速度[g/h]の測定を行い、水のxwNF~~xwxbFFxb~~NbNNNFFNbNb+=+++++

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