Vol.2 No.3 2009
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研究論文:ガス中微量水分測定の信頼性の飛躍的向上(阿部)−224−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)指示が大きく異なることが多々ある。このような問題が生じた場合、通常は国家標準に基づいて計測器の校正を行うことで解決を図るが、微量水分領域においては、ガス中水分量の国家標準が最近まで無く、校正を行うこと自体が困難であった。それでも必要が生じた場合は、ユーザーや計測器メーカーがそれぞれ何かしらの方法を用いて計測器の校正を試みてきた。しかし、それでも依然として計測器の指示の不一致がよく見られており、微量水分領域での水分測定の信頼性は決して高いものとは言えなかった。この問題に対応するため、産業技術総合研究所(産総研)では微量水分の国家標準 (微量水分標準)の確立を行った。ここでは国際単位系へのトレーサビリティが直接確保された一次標準用語2と呼ばれる計量学的に最も質が高い標準を開発した。それから微量水分標準の供給(校正サービス) 体系の整備を進めた(図2参照)。また、微量水分標準の開発過程において、キャビティリングダウンレーザー分光法(CRDS)と呼ばれる原理に基づく新しい微量水分計が優れた微量水分測定能力をもつことが分かってきた。このように、微量水分の国家標準が確立され、国際単位系へのトレーサビリティが確保された校正サービス体系が整い、高性能な計測器が市場で入手可能になったことから、近年、微量水分測定の信頼性が飛躍的に向上した。その一方で、従来の微量水分計測法の問題点が少しずつ明らかになってきている。本稿では、微量水分測定の信頼性向上を目標として産総研が策定したシナリオ、それに沿った研究活動、研究成果によって生じた微量水分測定の信頼性に関する近年の状況変化について紹介する。2 微量水分測定の信頼性向上のためのシナリオと目標産業現場等で微量水分測定が高い信頼性で行われるためには、①微量水分計の目盛りの基礎となる微量水分の国家標準の確立、②計測器の校正サービス体系の整備、③校正対象となる高性能な計測器が必要である。これらの関係を図3に示す。①~③を実現のため解決すべき各課題を、図中左から2列目に示してあり①~③と矢印で結んでいる。これらの課題は、国立標準研究機関、校正事業者、計測器メーカーによる解決が期待されるもので、それぞれが主に取り組むべき課題と考えられるものを矢印でつないでいる。①~③に注目すると、②については国際単位系へのトレーサビリティが確保された校正サービス体系の整備が重要であり、また③については国家標準に基づく実験での性能実証が極めて有効なため、この3つの中では①が最優先事項と考えた。さらに、①は国立標準研究機関が取り組むべき課題であったため、産総研は2001年にガス(窒素)中の微量水分標準の確立を目標とした研究に着手した。微量水分の発生下限の目標は大気圧下での霜点−100 ℃に相当する14 nmol/mol(ppb)とし、上限は現行の低湿度標準の供給範囲の下限を考慮して−75 ℃に相当する1 µmol/mol(ppm)とした。測定の不確かさは霜点−100 ℃付近で0.5 ℃に相当する、相対標準不確かさ11 %とした。これは英国物理学研究所(NPL)が当時目標としていた霜点−95 ℃での標準不確かさ0.5 ℃[4]をしのぐものとして設定した。 ②については、標準整備後のしばらくは産総研の国家標準器を使った依頼試験による校正サービスで個別ユーザーに対応し、それと並行して校正事業者を募ることとした。③については、国家標準確立後に、従来から使われていた計測器の評価を国家標準に基づいて行い、性能が高い機種を見出すことを当初考えた。以下このシナリオに沿って行った研究活動について述べる。図1 ガス中水分(湿度)の標準供給の現状霜点−75 ℃~−70 ℃の範囲は現在校正サービス準備中図2 微量水分測定のためのトレーサビリティ体系図3 微量水分測定の信頼性向上のための要素技術と統合のシナリオ46 %2.7 %0.3 %1 ppm14 ppb(101.325 kPa)分率物質量露点(℃)高湿度常湿度低湿度微量水分+95+23-10-75-100 微量水分の国家標準(外国)微量水分の計測器微量水分の参照標準微量水分の国家標準(日本)国際単位系産総研校正事業者ユーザー国際比較(進行中) 計測器メーカー産総研:国立標準研究機関校正事業者計測器の性能評価微量水分計の開発校正技術の確立参照標準器の整備不確かさ評価国家標準器の開発③高性能な微量水分計測器②校正サービス体系の整備①微量水分標準の確立産業現場等における微量水分測定の信頼性向上

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