Vol.2 No.3 2009
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研究論文:スピントロニクス技術による不揮発エレクトロニクスの創成(湯浅ほか)−219−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)参考文献http://nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2007/phyadv07.pdfT. Miyazaki and N. Tezuka: Giant magnetic tunneling effect in Fe/Al2O3/Fe junction, J. Magn. Magn. Mater., 139, L231-L234 (1995).J. S. Moodera, L. R. Kinder, T. M. Wong and R. Meservey: Large magnetoresistance at room temperature in ferromagnetic thin film tunnel junctions, Phys. Rev. Lett., 74, 3273-3276 (1995).[1][2][3]DRAM:コンピュータに用いられている大容量メモリ。キャパシタに電荷を蓄えることで情報を記憶する。電源を切ると、電荷が放電されるために記憶情報が消失する(揮発性メモリ)。SRAM:CPU中のキャッシュなどに用いられている揮発性メモリ。フリップ・フロップ回路の2値安定状態を用いて情報を記憶する。高速で高信頼性という利点を持ち、論理回路との整合性にも優れるが、高集積化に不向き、消費電力が大きいなどの欠点も持つ。SSD:フラッシュメモリを記録媒体に用いた外部ストレージ。ハードディスク(HDD)と違い、機械的な駆動部分がないため、Solid State(固体) Driveの頭文字をとってSSDと呼ばれる。HDDに比べて消費電力が少なく、衝撃にも強いという利点を持つ。一方、容量当たりの単価は、現在のところHDDに比べて1桁高い。 用語説明用語1:用語2:用語3:実現を目指して研究開発を続けている。4 おわりに本章では、本格研究を完遂した自らの体験に基づいて感想を述べたい。産総研の掲げる本格研究のシナリオはあくまで概念論であり、実際にこれを遂行する具体的な方法は現場の個々の研究開発者が暗中模索しなければならない。概念論も重要ではあるが、差し迫った難題を数多く抱える研究開発の現場ではすぐに役に立つものではない。実際に基礎研究の成果を製品化に繋げようとすると、技術的な課題だけでなく、社会ニーズとのマッチングの問題、さらに組織間の利害関係や人間関係などの複雑な要素が絡んでくる。特に組織間の利害関係が障壁となった場合、組織の上層部に任せていても膠着状態になるだけで何も進展しない。最後は現場の人間が組織に働きかけて問題の解決を図る必要があるため、現場の研究開発者間の信頼関係が重要となる。つまり、最後は“人対人”の問題である。技術的な課題について言えば、基礎研究と製品開発の間にある“死の谷”は想像した以上に広く深く、産総研だけで死の谷を渡りきることはほとんど不可能と感じられた。特にエレクトロニクスのような成熟した産業では、製造装置メーカー、素材メーカー、デバイスメーカー、ファウンドリ、というような分業体制が進んでいるため、研究開発の各段階で適切な相手と連携することが必須となる。今回我々が行ったような産総研と製造装置メーカーがタッグを組むというやり方は、第2種基礎研究の一つのモデルケースと言える。製造装置メーカーの重要性はまだ一般には十分認識されていないため、今回のような成功事例を通じて産総研としても積極的に発信していくべきであると感じられた。最後になるが、今回の研究開発において第1種基礎研究の成果から僅か3年という短期間で製品化に結びついた成功の要因を分析してみたい。成功の鍵を極論すれば、「技術シーズの筋の良さ」に尽きると言える。第1種基礎研究では何か飛び抜けた性能が一つあれば脚光を浴び、もてはやされる。しかし、製品開発においては、少なくとも10以上ある重要な項目の全てにおいて合格点を取らなければならず、致命的な欠点が一つでもあると製品化は不可能となる。たとえ著名な学術雑誌に論文が掲載されて脚光を浴びた“画期的な新技術”でも、その大半は何らかの致命的な欠点を持っており、ほとんどの場合、死の谷を越えることができない。ごく希に存在する本当に筋の良い技術シーズだけが死の谷を越えるポテンシャルを有しているが、この場合でも多くの協力者や賛同者が産業界から集まらなければ実用化は不可能である。ここで、いかにして有能な協力者や賛同者を集めるかが鍵となるが、技術シーズが本当に筋の良いものであれば、適切なタイミングで適切な成果発信を行っていけば“自然に人は集まってくる”、というのが我々の感想である。筋の良い技術シーズは、有能な人間を引き寄せるものである。産業界には保守的な人間も多く、新技術に対して懐疑的な見解や批判が浴びせられることも多いが、新技術の筋の良さを見抜いて適切に評価できる開発者やマネージャーもまた必ず存在する。もし、技術シーズをいくら成果発信しても有力な協力者が集まらず産業界が全く動かないのであれば、それを産業界の保守性のせいにする前に、まず自分の技術シーズの筋が悪いのではないかと疑ってみた方がよい。付記本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)さきがけ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ナノテク・先端部材実用化研究開発(ナノテク・チャレンジプロジェクト)、ならびにNEDOスピントロニクス不揮発性機能技術プロジェクトの支援により行われた。また本研究の一部は、キヤノンアネルバ(株)、および(株)東芝との共同研究の一環で行われた。

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