Vol.2 No.3 2009
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研究論文:スピントロニクス技術による不揮発エレクトロニクスの創成(湯浅ほか)−214−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)MTJ素子は1ビットの情報を“不揮発”に記憶することができる。低温でTMR効果が発現することは1970年代から知られていたが、室温で磁気抵抗が得られなかったため、その後10数年の間あまり注目されることはなかった。しかし、1988年に上述のGMR効果が発見され、これを用いた磁気センサー(HDD磁気ヘッドなど)の研究開発が盛んになるにつれて、TMR効果にも再び注目が集まるようになった。1995年に宮崎ら[2]とムデーラ(J. Moodera)ら[3]は、トンネル障壁にアモルファス(原子の配列がランダムな物質)の酸化アルミニウム(Al-O)、強磁性電極に多結晶のFeやCoなどの遷移金属強磁性体を用いたMTJ素子を作製し、室温・低磁界で20 %近いMR比を実現した(図3)。これが室温MR比の最高値(当時)であったため、TMR効果が一躍脚光を浴びることとなった。その後、Al-Oトンネル障壁の作製法や電極材料の最適化が精力的に研究され、現在までに室温で70 %を越えるTMR効果が実現されている。室温TMR効果は、実現から約10年後の2004年にHDD再生磁気ヘッド(TMRヘッド)として実用化され(図5)、このTMRヘッドと垂直磁気記録媒体の組み合わせによって、記録密度が100 Gbit/inch2の高密度HDDが実現された。さらに、2006年にはMTJ素子を用いた比較的小容量(4 Mbit~16 Mbit程度)の不揮発性メモリMRAM(図6)が製品化され、高信頼性(無限回書き換え可能)を有する唯一の不揮発性メモリとして注目されている。ここで、MRAMが無限回書き換え可能な理由は、スピンの向きの反転(つまり書き込み)には材料劣化のメカニズムが全くないためである。また、MRAMの動作速度はDRAMよりも速く、現在CPU内で用いられている高速メモリSRAMに近い動作速度も実現可能である。しかし、アモルファスAl-Oトンネル障壁を用いた従来型MTJ素子の性能(室温MR比)の改善はほぼ飽和していたため、これがHDDやMRAMのさらなる高性能化に向けて深刻な問題となっていた。例えば、アモルファスAl-OやTi-O障壁を用いたMTJ素子では、200 Gbit/inch2より高い記録密度のHDDやGbit級の大容量MRAMを開発することは困難であった(図4)。この限界を超えて、より高集積・高速・低消費電力の次世代デバイスを開発するためには、より高いMR比の実現が不可欠であった。このように行き詰まりを見せていたアモルファスのトンネル障壁とは別に、結晶性のトンネル障壁を用いた単結晶MTJ素子に関する第一原理の理論計算が2001年前後に発表され、1000 %を越える巨大なMR比が理論的に予測された。2004年に産総研において、結晶性の酸化マグネシウム(MgO)をトンネル障壁に用いたMTJ素子で巨大な室温TMR効果が世界で初めて実験的に実現され、TMR効果の応用研究が大きく進展することとなった。本稿では次章以降、結晶MgOトンネル障壁を用いた超高性能MTJ素子の研究開発における第1種基礎研究、第2GMR (b)電流(a) 磁界信号磁気センサー素子(再生磁気ヘッド)記録媒体(ディスク)上の記録トラック200 Gbit/inch2 を越えるには次世代ヘッドの開発が不可欠TMRヘッド(アモルファス絶縁体)GMRヘッド記録密度 (Gbit / inch2)200620042002200019981996199419921990TMRGMRAMR10001001010.10.01ディスクの回転方向GMR (b)電流(a) 磁界信号磁気センサー素子(再生磁気ヘッド)記録媒体(ディスク)上の記録トラック200 Gbit/inch2 を越えるには次世代ヘッドの開発が不可欠TMRヘッド(アモルファス絶縁体)GMRヘッド記録密度 (Gbit / inch2)西暦(年)200620042002200019981996199419921990TMRGMRAMR10001001010.10.01ディスクの回転方向図5 (a)ハードディスク(HDD)の再生磁気ヘッドの仕組み。(b)HDDの記録密度と再生磁気ヘッドの変遷 厚さnmの絶縁体層(トンネル障壁)(c)強磁性電極層強磁性電極層eeee反平行状態平行状態≡ ( ‒ )/ MR比MTJ素子の電気抵抗( R )磁界( H )(d)(b)(a) 絶縁層SyF型ピン層(fcc(111)配向)シード層強磁性電極層(ピン層)強磁性電極層(フリー層)トンネル障壁下部リード線orキャップ層反強磁性層上部リード線0eeAPRRPAPRRPRP図4 磁気トンネル接合(MTJ)素子のトンネル磁気抵抗(TMR)効果 厚さnmの絶縁体層(トンネル障壁)(c)強磁性電極層強磁性電極層eeee反平行状態平行状態≡ ( ‒ )/ MR比MTJ素子の電気抵抗( R )磁界( H )(d)(b)(a) 絶縁層SyF型ピン層(fcc(111)配向)シード層強磁性電極層(ピン層)強磁性電極層(フリー層)トンネル障壁下部リード線orキャップ層反強磁性層上部リード線0eeAPRRPAPRRPRP

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