Vol.2 No.3 2009
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研究論文:スピントロニクス技術による不揮発エレクトロニクスの創成(湯浅ほか)−213−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)強磁性体が持つ磁気ヒステリシス(履歴)特性を活用すれば、磁気記録と同様の不揮発記憶が可能となる。磁気抵抗効果のデバイス応用において、室温かつ低磁界(数ミリT(テスラ)以下)におけるMR比が応用上の性能指数となる。これは、通常の電子回路の中で生成できる磁界がせいぜい数ミリTと小さいためである。室温・低磁界のMR比が大きければ大きいほど、より高性能なデバイスの開発が可能となる。この応用上重要な室温・低磁界のMR比は、かつてはわずか1~2 %しかなかったため、応用上有用とは考えられなかった。ところが、1988年にA. FertらとP. Grünbergらは磁性金属多層膜の巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を発見し、室温・低磁界において従来よりも1桁大きな10 %前後のMR比を実現した。この発見により、A. FertとP. Grünbergは2007年にノーベル物理学賞を授与されている。GMR効果は、発見後約10年でHDDの再生磁気ヘッド(GMRヘッド)として実用化され、その後のHDDの急速な大容量化をもたらした(図3)。また、GMR効果の発見が契機となって磁気抵抗効果の研究開発が世界規模で精力的に行われ、室温におけるTMR効果(後述)の実現にもつながった(図3)。GMR効果については本稿では割愛するので、詳しくは2007年ノーベル物理学賞の公式資料[1]を参照されたい。TMR効果については、次節以降で詳しく述べる。1.3 室温TMR効果の実現とその応用厚さ数nm以下の絶縁体層(トンネル障壁)を2枚の強磁性金属層(強磁性電極)で挟んだ素子を、「磁気トンネル接合素子(Magnetic Tunnel Junction (MTJ)素子)」と呼ぶ(図4)。絶縁体は通常は電流を通さないが、絶縁体の厚さが数nm以下の極薄になると量子力学的な効果によって微小な電流が流れる。この現象は「トンネル効果」と呼ばれ、この効果によって生ずる電流と電気抵抗を、それぞれ「トンネル電流」、「トンネル抵抗」という。電極層が強磁性体の場合、平行磁化状態(P状態:図4(a))ではトンネル抵抗が小さくなり、より大きな電流が流れる。一方、反平行磁化状態(AP状態:図4(b))ではトンネル抵抗が大きくなり、トンネル電流は減少する。この現象を、「トンネル磁気抵抗効果」(英語のTunnel Magneto Resistance の頭文字を取ってTMR効果)という。MTJ素子に磁界を印加すればP状態とAP状態の間をスイッチできるため(図4(d))、磁気抵抗が生じる。また、強磁性体は磁気ヒステリシス特性を持つため、零磁界においてP状態とAP状態の2値安定状態を持つことができ、 - e 電荷電子工学スピントロニクス電子スピン磁気工学・ダイオード・トランジスタ・レーザー電子の電荷とスピンの両方を利用する新しい分野・磁気記録・永久磁石・トランス電子磁気抵抗効果LSIハードディスクNS1985 西暦(年) 1990 1995 2000 2005 2010 MR比比(室温・低磁界) MRヘッドGMRヘッドHDD磁気ヘッドインダクティブヘッド磁気抵抗効果の産業応用MRAM スピンRAM不揮発性メモリ新規デバイスTMRヘッドMgO-TMRヘッド1857 A.Fert, P.Grünberg Lord KelvinAMR効効果MR = 1~~2% GMR効効果MR = 5~~15% MR = 200~600% MR = 20~~70% (ノーベル物理学賞 2007) TMR 効果 宮﨑照宣, J. Moodera 湯浅新治, S. Parkin巨大TMR 効果磁気抵抗効果の実現わずか3年で 製品化 ! マイクロ波発振器、乱数発生器 など は研究開発中は既に製品化図2 スピントロニクスと磁気抵抗効果図3 磁気抵抗効果とその産業応用の歴史と展望

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