Vol.2 No.3 2009
22/74

研究論文:スピントロニクス技術による不揮発エレクトロニクスの創成(湯浅ほか)−212−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)を実現するための研究開発を遂行している。ここで、「高信頼性」とは主に 「書き換え耐性」のことである。コンピュータのメインメモリとして用いられるDRAMやSRAMに代わるものには、「1015回書き換えても壊れない、事実上無限回書き換えが可能」という優れた書き換え耐性が要求される。ちなみに、現在外部ストレージとして用いられているフラッシュメモリの書き換え耐性は104~106回しかないため、とてもメインメモリとして使えない。また、既に製品化されている不揮発性メモリの代表格である強誘電メモリ(FeRAM)の書き換え耐性は108回程度であるため、やはりコンピュータのメインメモリとして用いるには難がある。現在開発中の不揮発性メモリである相変化メモリ(PRAMあるいはPCRAMと呼ばれる)も、書き換え回数に制限がある。これに対して、スピントロニクス技術(後述)を用いれば、無限回書き換えが可能な不揮発性メモリの開発が可能となる。ところで図1に示すように、不揮発性・大容量の外部ストレージとして、ハードディスク駆動装置(HDD)が現在の主流である。今後、小容量や高付加価値の用途ではフラッシュメモリを用いたSSD用語3がHDDに代わっていくと予想されるが、使用台数が多い大容量・低価格の用途では今後もしばらくはHDDが外部ストレージの主役を担うと予想されている。しかし、HDDはその消費電力の大きさが問題視されている。HDDを低消費電力化するには、とにもかくにも記録媒体ディスクのサイズ(直径)を小さくすることが重要であり、そのためにはHDDのさらなる高記録密度化が鍵となる。現在の主流は大容量の3.5インチHDD(ディスク直径が3.5インチという意味)であるが、3.5インチHDDは消費電力が非常に大きい(典型的な数値として、1台当たり5ワット前後)。一方、2.5インチHDDの消費電力は3.5インチHDDの5分の1程度と小さい。HDDを高記録密度化することによって現在主流の3.5インチHDDを2.5インチHDDに置き換えることができれば、HDD全体で大幅な消費電力の低減が可能となる。産総研では、HDDの高記録密度化を目指した研究開発も行っている。1.2 不揮発エレクトロニクスを実現するスピントロニクス技術「スピントロニクス」とは、電子の持つ電気的性質(電荷)と磁気的性質(電子スピン)の両方を活用して新しい機能を創出する新しい分野である(図2)。電子の電荷のみを利用したシリコン・エレクトロニクスはIT技術の基盤であるが、不揮発記憶を苦手としている。一方、電子スピンのみを利用した磁気工学は不揮発記憶を得意としているが、論理演算や低消費電力性は不得意分野である。これらの従来技術に対して、スピントロニクス技術を用いれば、不揮発性と高信頼性、低消費電力、論理演算などの特徴を同時に実現できる可能性がある。大容量・高速・高信頼性を兼ね備えた不揮発メモリは、究極のノーマリー・オフを目指した不揮発エレクトロニクスの中核となる。スピントロニクス分野では、電荷とスピンの相互作用を活用するために何らかの量子力学的な現象(量子効果)を利用する。その中でも最も重要な効果が「磁気抵抗効果」である。磁気抵抗効果(MagnetoResistanceを略してMR効果とも呼ばれる)とは、固体物質や固体素子に磁界を印加することにより電気抵抗が変化する現象であり、その電気抵抗の相対的な変化率を「磁気抵抗比」あるいは「MR比」という。磁気抵抗効果を利用すれば磁界信号を電気信号に変換できるため、ハードディスク(HDD)の磁気センサ素子(再生磁気ヘッド)などに利用できる。さらに、 今後実現すべき電子機器の構成超高密度化によりHDDの消費電力を大幅に低減スピンRAM低消費電力HDDおよびSSDディスプレー不揮発性外部メモリ大容量・高速・高信頼性の不揮発メモリ不揮発CPU現在の電子機器の構成室温・低磁界で巨大な磁気抵抗を示す高出力MTJ素子<中核となる要素技術>消費電力大揮発性HDDディスプレー不揮発性外部メモリSRAMDRAMCPU・ 起動が遅い<問題点> ・ 待機中でも電力を消費現在のエレクトロニクスは“ ” (究極のグリーンIT技術) (瞬時立ち上げ技術)“ ”を実現 で揮発性スピントロニクス技術クイック・オンノーマリー・オフ不揮発エレクトロニクス図1 現在のエレクトロニクスと将来実現すべき不揮発エレクトロニクス

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です