Vol.2 No.3 2009
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研究論文:2タイプのリード・ユーザーによる先端技術の家庭への導入モデルの提案(久保ほか)−209−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)清水智寿子、東興株式会社/フライングソーサー 取締役店長、2008年5月19日。千葉美枝子、フード・スタイリスト/フライングソーサー、2008年7月14日。査読者との議論 議論1 議論の根拠となるエビデンスについて質問・コメント(赤松 幹之:産総研人間福祉医工学研究部門)先端技術が家庭に導入されるためには、技術を使うための補完システムが必要であり、そこには、ある立場の女性(原稿段階での記述)が有効に働く、という論点は技術の社会導入における1つの重要なポイントと考えられ、シンセシオロジーのスコープに合致しています。しかし、論文全体としての論旨がやや不明確であり、エビデンスも充分ではないように思います。質問・コメント(内藤 耕:産総研サービス工学研究センター)特に「4 IHを利用・・・時系列分析」において、まず具体的な普及曲線を販売量データから作成し、そこに重要なイベントがどのように関係しているのかが分かる図の作成をお願いします。回答(久保 友香)エビデンスの不十分性については自覚があり、IHを利用した調理の実態や、シリコン樹脂製スパチュラの売上量のデータを収集するため、電気機器メーカーや調理道具メーカーの協力を得る努力をしていましたが、達成できませんでした。また、セレクトショップの販売量のデータも非公開でした。そのため、メディアで伝達する情報から、一般家庭のユーザーの利用状況の分析を行いました。雑誌の種類は非常に多様で、網羅的な分析に限界があることを残念に思いながら、可能な限り適切な抽出を試みました。本論は実証分析からIHが家庭に導入されるときにIH独自の調理法が貢献しており、調理法を普及させたのは感性的リードユーザーですが、発見したのは論理的リードユーザーであることを明らかにしました。論理的リードユーザーが新しい調理法を発見できたのは、論理的リードユーザーが、ユーザーでありながら、技術の中身にまで好奇心を持っていることに起因するので、このことを表すように修正しました。議論2 感性的リードユーザーについて質問・コメント(赤松 幹之)料理研究家が論理的リードユーザーで、セレクトショップが感性的リードユーザーとしています。料理研究家については論旨が明確ですが、セレクトショップについては論旨が不明瞭です。電気事業者と独立であるとしていますが、TEPCO館のセレクトショップなので、独立とは言えないように思います。また、社会ニーズ対応の活動としていますが、「男性が調理に参加」や「好きな調理器具に囲まれる生活」は一般でいう社会ニーズではないと思います。また、「IHとスパチュラは半ば偶然である」とありますが、ということは東京電力のCMに重要な役割があったことになります。この点からすると、電気事業者がコアとして機能したとも言えないでしょうか?回答(久保 友香)コメントをいただきましたとおり、感性的リードユーザーの行動が、社会ニーズ対応であることは本分析から明らかになっていません。感性的リードユーザーの直観的アイデアから発生した商品が、トレンドを伝えるファッション誌の雑誌記事で多く取り上げられていることから、結果的に社会トレンドに合致していることは明らかと言えると考えます。社会トレンドという言葉を用いて、記述を変更しました。感性的リードユーザーであるセレクトショップは、東京電力の支援によって銀座TEPCO館に店舗を構えますが、商品開発や商品選択などにおいて東京電力の協力はない関係にあります。東京電力のCMの影響も、両手に調理道具を持つ炒め物調理である点は同じですが、木べらを利用しており、木べらをスパチュラに変えることは当然の発想でないことは重要だと考えます。しかし、東京電力が、感性的リードユーザーに支援したことは偶然ではないと考えられます。銀座TEPCO館にセレクトショップを設置する過程で、一般の主婦の意見などを取り入れており、企業から発想できないアイデアを得ることを目的に構築した連携で、東京電力はある程度意図していたと考えられます。主婦の意見を取り入れていることを、加筆しました。議論3 女性の貢献について質問・コメント(赤松 幹之)「女性の貢献」が本論文の重要なポイントとしていますが、「論理的リードユーザー」「感性的リードユーザー」という枠組みでは、女性であることは必須の観点ではないと思われます。もちろん、 2つのリードユーザーはいずれも女性でしたが、これは対象が女性が使うことの多い調理器具だったためであると考えられます。質問・コメント(内藤 耕)女性を中心とする社会ニーズに直感を持つ感性的リードユーザーの役割の重要性を考察しています。これは重要な指摘と思いますが、「自立した個人としての女性」「家庭で料理を担当する女性」という記述はありますが、本論文のデータや分析ではその「女性」の役割の重要性が明確ではないと考えます。回答(久保 友香)技術の普及に、論理的リードユーザーと感性的リードユーザーがそれぞれの立場で貢献したのは、一般的なユーザーが技術の中身を理解しないことが理由の一つであります。技術の中身を理解しないユーザーが多いのは、女性をユーザーとする技術に多く見られると考え、女性のリードユーザーの貢献を指摘しました。しかし、IHが家庭に導入されることに貢献した論理的リードユーザーと感性的リードユーザーの役割は、IHでないケースでは男性が担うことがあると考えられます。「女性」に限定する記述を省き、このモデルが、他のさまざまな技術のケースにも当てはまることを探究したいと思います。議論4 他の製品例について質問・コメント(赤松 幹之)他の製品例との比較・考察があると読者の参考になると思います。例えば、調理器具という観点からでは、圧力鍋は一例になるかもしれません。回答(久保 友香)ユーザーに、技能やレシピ、道具がなくとも利用できる電子レンジや炊飯器などに対し、IHは製品がそこにあるだけではユーザーは便益を得られません。同様に、ユーザーに技能やレシピ、道具などの補完システムを必要とする製品については、本論が示すように普及において多様なリードユーザーが貢献すると考えられます。たとえば、圧力鍋や無水鍋は、メーカーによって開発されたのは過去ですが、現在でも、機能を引き出す調理法やレシピについて、料理研究家からの情報発信がさかんに行われています。近年、油を減らした料理への注目と相俟って利用者が増えているのは、リードユーザーの貢献によるものと考えられ、考察において、圧力鍋と無水鍋の例を加えるとともに、さらなる事例の調査は今後も課題としていきたいと思います。議論5 イノベーションの観点について質問・コメント(内藤 耕)「IHイノベーション」について、IH技術の完成に加え、それをイノベーションと位置づけるには、IHがどのような社会的価値を形成したのかを記述してください。新しい調理法の登場がIHの普及に大きく

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