Vol.2 No.3 2009
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研究論文:2タイプのリード・ユーザーによる先端技術の家庭への導入モデルの提案(久保ほか)−205−Synthesiology Vol.2 No.3(2009)6 IH技術に付随する調理システムの開発と普及モデルの提案IHに付随する調理システムの展開は、図3に示すように開発と普及の2段階に分かれる。まず、1999年から2000年にかけて両手に木べらを持つ調理法がなかば自然発生し、木べらが使用されるプロセスで新しい調理道具としてのシリコン樹脂製スパチュラの使用が始まった。第2段階は2004年以降であり、IHの普及につれて新しい調理システムがメディアを通じて情報発信されている。調理システムの開発と普及に貢献した個人と組織をみると、開発に関しては、IHの普及を推進する電気事業者を筆頭に、直観的に両手に木べらを持って調理を行ったプロの料理人Y、それをIHに適応した調理法と位置づけた料理教室コーディネーターN、木べらをスパチュラに代替した料理研究家Wが主要な役割を果たしている。一方、普及に関しては、東京電力のオール電化の販売促進プロジェクトを中心に、IH調理の啓蒙にあたる料理研究家、また、フライングソーサーに代表される小売りショップの販売促進活動が、さまざまなメディアを経由して家庭へと発信されている。新しい調理システムの開発と普及を考察するために、表1に、開発と普及の主体となる個人・組織について、その活動内容、生成・移転された知識、また、活動の成果を既存研究と比較して示す。フォークの進化が長期に渡る累積的なプロセスであったのに対して、IH調理システムの変化は先端的な科学技術による非連続的進化であるが、フォークの事例同様に、ユーザーとしての家庭が進化において一定の役割を果たしていた。また、キーボードの事例との関連でいえば、調理システムを構成する調理道具やレシピは企業以外でも開発可能であり、キーボード配列の事例同様に、市場メカニズムに加えて一部のユーザーの趣向などの外部効果が影響を与えた。以上の検討に基づき、本研究が対象とする調理法の開発・普及の特徴を述べてみよう。第一に、IH イノベーションを補完する調理法の開発と普及を行ったのは、IHの技術開発を担当した大手家電メーカーではない。家電メーカーからの宣伝広告は、IHに対して懐疑的な消費者を対象にIHの短所が解決できることを示す内容であり、IHの可能性を活かした新しい調理法に関する提案は見られない。開発と普及に貢献した一連の個人は、電気事業者にもメーカーにも直接の形で所属しない自立したリード・ユーザーであり、彼らは一般ユーザーのように既存の調理法を単純に受け入れることには満足せず、既存の調理道具、調理法に対図3 両手にシリコン樹脂製スパチュラを持って炒める調理法の開発と普及表1 先行する人工物の進化と比較したIHイノベーションのメカニズム新しい社会価値の提供必ずしも高くない以前より確実に良い普及した人工物の性能 雑誌、セレクトショップ(電気事業者施設内)、TV コマーシャル、WEBタイピング・コンテスト、タイピング専門学校礼儀作法の本、餐宴普及を促進するメディア環境 社会トレンドとの適合性タイピング能力によるユーザー間競争マナーの形成(社会との協調)普及の駆動力 IHの機能を活用した新しい調理の開発より高い性能の実現既製品における失敗の改良開発の駆動力 感性的リード・ユーザーユーザーコミュニティユーザー普及の主体 論理的リード・ユーザーメーカーリード・ユーザー開発の主体 両手にシリコン樹脂製スパチュラを持って炒める調理法キーボード配列QWERTYフォークの歯が4本になったこと例 IH技術に付随する調理システムデービッドモデル[David,1985]ペトロスキモデル[Petrosky 1992] 発生ステージ(1999-2000)普及ステージ(2004-2006)シェフYサポート(ビジネス)2005~サポート(研究)1999~1999観察200019992006200420042005知識移転料理教室コーディネータNスパチュラ2本の調理法の発生木べら2本の調理法の発生見本提供輸入業者K料理研究家W料理研究家W卸売り2004~TVCMによる発信20062008オリジナル商品発表木べらシリコン樹脂製スパチュラ一般ユーザースタイリストC販売人Sセレクトショップ7色展開のスパチュラを発売と発信(雑誌の雑貨特集)スパチュラ2本の調理の発信(店舗等での販促)スパチュラ2本の調理法の発信(雑誌の調理記事)2005
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