Vol.2 No.2 2009
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研究論文:高感度分子吸着検出センサーの開発(藤巻ほか)−156−Synthesiology Vol.2 No.2(2009)する血液や唾液のような人由来の検体を用いて、実際の検出対象となる物質の検出を行い、その性能を示すことである。ここで重要なことは「選択性」である。より正確に、他の物質と検出対象物質を分離する高い選択性を得ることが第一の課題である。そこで、実際のアウトカム実現に向け、疾患に応じて、その疾患に起因した物質を特異的に捉える物質の開発が重要となる。また、本開発で得た、色による判別方法を積極的に取り入れ、目的とする検体に特異的に着色が可能な色素の開発により高い選択性を獲得していきたい。もう1つの課題はコストである。医療目的であることから、検出板の原価は高くとも100円程度であることが望まれる。この点は、集積化技術を取り入れ、量産化することによって、達成できるであろうと期待している。7 おわりに上述のようなセンサー開発によって、実際の応用面からの要求に十分答えられる検出感度を得ることができ、また従来のセンサーにおいて大きな問題であった、夾雑物の影響、温度変化の影響も低減できる可能性を示すことができた。開発した検出板は、物理的、化学的な安定性も高い。さらには、上記では触れなかったが、導波路をSi熱酸化膜で形成することによって、分子検出における表面修飾においてシランカップリングを利用できる点も大きい。シランカップリングは非常に強固で、簡易で、かつ安価な表面修飾方法であるからである。また、我々の装置は、コンパクト化にも向いている。現在、我々の検出機構を搭載した「広辞苑」と同程度の大きさの卓上型の装置を試作中である。ブレイクスルー :光吸収の変化を利用。 ・ 感度1000倍以上。 ・ 夾雑物の影響の低減 ・ 温度の影響の低減 ・ 光学系の簡単化 を実現。 光導波モード対象分子高感度、高安定、高信頼性高アスペクト比ナノ穴形成 ・ 感度1桁以上向上。基板材料 : SOQ基板を使用。光導波路 : 単結晶Si層を熱酸化。 ・ 高感度・高安定を実現 ・ ナノ孔形成時の表面荒れ低減反射膜材料 : Siを用いる。 ・ ガラスとの密着性良好。 ・ 物理的、化学的に安定。 ・ 感度良好。 ・ 加工性良好。単結晶Si反射膜SiO2基板 モノリシック検出板ナノ細孔付き反射層用語説明導波モード:光が有限の媒体内を全反射して伝わるとき、反射角は制限されてとびとびの角度となる。そのときの媒体内の光の強度分布は共鳴によって強めあったり弱めあったりする「節」を形成する。このような光強度分布を保ったまま光が伝搬する状態を導波モードと呼ぶ。一例として、光ファイバ内の光の伝搬モードが挙げられる。エバネセント場:光が反射する際、その光が反射する媒質内部に浸透する。この浸透した電磁場をエバネッセント場と呼ぶ。全反射条件下では、1波長程度まで低屈折率な媒質側に光が浸透する。表面プラズモン:プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動する現象のことである。金属表面でのこの自由電子の振動のことを表面プラズモンと呼ぶ。一般に光はプラズモンとはカップリングしないが、エバネセント波は表面プラズモンとカップリングすることできる。つまり、エバネセント場によってプラズモンを励起することができる。ビオチン:分子量244.31、分子式C10H16N2O3S。ビタミンB7、ビタミンHと呼ばれることもある。ストレプトアビジン:分子量約60,000の糖タンパク。ビオチンに対する親和性が非常に高く、このビオチン-ストレプトアビジンの吸着反応は、様々な生体分子やナノ粒子などの繋ぎ合わせに用いられている。用語1:用語2:用語3:用語4:用語5:図17 本研究開発の流れこのように開発当初想定していた要素に対しては、十分な結果が得られている。今後、実際に本センサーを必要としている分野の研究者と交流を密にし、医療機関との連携、化学やバイオの分野の研究者との異分野連携を推進し、医療分野で活躍する検出器の実現を目指して、研究を進めていきたい。謝辞本研究開発において、導波モード測定実験を手伝って頂いた光技術研究部門バイオフォトニクスグループ 福田伸子研究員、早稲田大学理工学術院 大木義路教授及び大木研究室の学生諸氏、イオン注入実験を手伝って下さった筑波大学研究基盤総合センター応用加速器部門 小松原哲郎先生、シミュレーションを手伝って下さった近接場光応用工学研究センター 王暁民氏、Friedrich Schiller University Jena カーステン ロックスチュール博士、及び関係者の皆様に深く感謝の意を表します。

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