Vol.2 No.2 2009
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研究論文:高感度分子吸着検出センサーの開発(藤巻ほか)−155−Synthesiology Vol.2 No.2(2009)径20 nmのAuナノ粒子に4~5個のストレプトアビジンが付いている。Auナノ粒子は波長632.8 nmにおいて光吸収を持っている。この検体を10 pM含有するトリス緩衝生理食塩水を試料として用いた。図15は検体注入前後の反射率特性の変化を示す。白丸は注入前、黒丸は注入後20時間経過後の反射率特性を示す。最大で0.046の反射率の減少を観測することができ、上述のような低濃度の検体を検出することに成功した。次に、色素を用いることによって感度向上が得られるかを試験するために、ストレプトアビジンを青色の色素であるCoomassie Brilliant Blue G−250で着色した後、ビオチンによるストレプトアビジンの捕捉を検出した。この色素は、波長600 nm付近に光吸収を持つ。検出板及び光学系は前述の試験と同様のものを用いた。この検体を100 pM含有するリン酸緩衝液を試料として、検出実験を行った。図16に試料注入前後の反射率特性の変化を示す。白丸は注入前、黒丸は注入後1時間経過後の反射率特性を示す。この場合も十分大きな反射率変化が生じることが分かる。この検出感度は、これまでのEFC-WMセンサーの感度と比べ約3桁高い感度である。以上に示した2つの例では、いずれも検体の吸着による屈折率変化に伴うディップ位置の変化も生じていると思われるが、いずれの場合も分子の吸着量が少なく、ディップ位置の変化は明確には確認できない。また、このタイプのセンサーでも、ナノ穴形成によって感度のさらなる向上が期待できる。この試みは今後の課題としたい。本手法では、ディップの深さの変化のみを測定するように設定すれば、検出感度が温度の変化の影響を受けなくなる。なぜなら、温度変化による水の屈折率変化はディップの角度方向の変化のみを生じ、ディップの深さ方向の変化を伴わないからである。また、この測定方法では、物質の光吸収を捉えて検出するため、光吸収を持たない物質が吸着しても殆ど反射特性に影響を与えない。つまり、夾雑物が検出面に付着しても、その物質が検出光に対して光吸収を持たなければ検出されないことから、夾雑物の付着の影響を受けにくいという特徴も合わせ持つ。このように本手法は、従来法に比べて多くの優位点を持つ。5 本研究の構成以上に示した我々の開発の流れを図17にまとめる。我々は、本センサーの高機能化研究において、結果的に戦略的選択型と呼ばれる構成方法を用いた[15]。まず、コア技術であるEFC-WMセンサーの感度の向上を図るために、シミュレーションを元に、導波路層へのナノ加工を実施することを選択した。ナノ加工を実施することによって感度の向上を得ることができたが、新たにセンサーの物理的安定性と加工面の平坦性に問題が生じた。この問題を解決するために、材料選択に立ち返って、従来とは違った視点、つまり感度だけでなく密着性や加工性の高さを新たな基準として、反射膜材料の選択を行った。反射膜としてSiが適していることを見出し、このことから熱酸化によって導波路層を形成する手法を考案した。均一性の高い、つまりナノ加工時に荒れが少ない熱酸化Si層を得るためには、単結晶Si層が良い。そこで、シリカガラス基板上に単結晶Si層を持つSOQ基板を用いることとした。この単結晶Si層を熱酸化して導波路を形成することによって、高い性能を持つセンサーを開発できたのは既述の通りである。このように、複数の要素技術を戦略的に組み合わせることによって、最終的な高機能センサーという統合技術を得ることができた。6 今後の課題本センサーを実用化するには2つの大きな課題がある。1つは、実際の測定環境下、つまり様々な夾雑物が混在 0.50.70.60.870.770.670.870.97171.1吸着後吸着前反射率入射角 (度) 0.30.50.40.6696870717273吸着後吸着前反射率入射角 (度)0.80.7図15 光吸収検出型モノリシック検出板を用いて観測した、金ナノ粒子が付いたストレプトアビジン(濃度10 pM)がビオチンに吸着する前後の反射特性。図16 光吸収検出型モノリシック検出板を用いて観測した、Coomassie Brilliant Blue G−250で着色したストレプトアビジン(濃度100 pM)がビオチンに吸着する前後の反射特性。
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