Vol.2 No.2 2009
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研究論文:高感度分子吸着検出センサーの開発(藤巻ほか)−149−Synthesiology Vol.2 No.2(2009)る。導波モードも、SPRモードと同様、表面状態に敏感であるため、導波路の表面に生体分子などが吸着すると、上記の共鳴角が変化し、反射光強度の変化が生じる。この反射光強度の変化を利用し分子吸着を検出するセンサーがEFC-WMセンサーである。SPRセンサーは、検体を標識物質で標識化しないラベルフリーな検出手法であり、ラベル化を行わずとも十分に検体を検出できるだけの感度を持っていることが大きな特徴である。よって、煩雑なラベル化工程が不要で、その結果、検出が簡単に行えるという特徴がある。また、検体をラベル化しないことから、検体自身が持つ特性や特徴が損なわれない。したがって、対象となる分子の挙動、例えば、特定分子をどのような環境下で吸着するか、などを正確に観察することができる。しかし、感度という面では、標識物質を用いる高感度検出法、例えば酵素結合免疫吸着法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay[6]、エライザ法と呼ばれる)よりは2~3桁程度劣ると言われている(ただし、感度は、測定対象分子の種類や大きさ、測定対象分子の捕捉方法、測定環境、例えば、血液中か緩衝液中か、夾雑物は存在するか、など様々な要因に大きく左右されるため直接の比較は難しい)。EFC-WMセンサーもSPRセンサー同様、ラベルフリーな検出手法である。これまで、EFC-WMセンサーは、光反射物質に制限がないことやS波P波の両方が使えるなどの利点があるにもかかわらず分子吸着検出センサーとしてSPRセンサーの後塵を拝してきた。その最も大きな理由は、分子吸着時の共鳴角の変化量の絶対値がSPRセンサーに比べ小さいことである。しかしながら、EFC-WMセンサーでは共鳴角の幅が鋭く、よって小さな角度変化でも大きな反射率特性の変化が得られると言う特徴がある。また、SPRセンサーに比べ、EFC-WMセンサーでは導波路層を形成する分、作製工程が煩雑になる。しかし我々はこの導波路層を工夫することこそ、さらなる高感度化の鍵であると考えた。これらの特徴を活かしEFC-WMセンサーの感度を2~3桁向上できれば、分子吸着検出センサーの感度としては申し分無い。感度の他に、使用する環境、特に室温に対する感度の安定化も求められる。感度が高い検出方法は、高感度であるがゆえに、環境の影響を受けやすい。一般に生体分子は、血液や尿や緩衝液など、何らか形で水に溶けている。水は温度によって誘電率が変化するため、SPRセンサーやEFC-WMセンサーのように誘電率の変化を検出するセンサーは、原理上温度に対して非常に不安定である。センサーを高機能化するに際し、この温度安定性の問題の解決は大変重要な課題である。このように、EFC-WMセンサーを医療分野で使用可能な有効な検出手法とするには、性能上求められる様々な課題がある。しかしながら、SPRが発現する材料しか使用できないSPRセンサーとは異なり、EFC-WMセンサーは、反射膜材料には光を反射する薄膜材料であればあらゆる材料が使用でき、また、導波路層には透明薄膜材料であればどのような材料でも使用できる、という大きな自由度があり、高感度化、高性能化の余地が多分にあった。そこで我々は、以下に示すシナリオを描き、センサーの高機能化に取り組んだ。2.2 EFC-WMセンサー高機能化のシナリオまず我々は、導波路自体の構造に着目した。図3は、導波モードが励起されている時の導波路内の電界分布のシミュレーション結果を示す。ここでは、入射光は波長632.8 nmのS偏光、基板ガラスの屈折率は1.769、反射膜は厚さ40 nmのAu、導波路層は厚さ500 nmのシリカガラスであるとした。また、導波路表面は水に浸っているとした。入射光は、図の左側から照射されている。図から分かるように、電界は導波路内部で強く、導波路表面付近では弱くなってしまう。この電界の強い位置に分子を誘導できれば、より高い感度で分子検出ができる。よって、我々は、導波路層に穴を形成し、検体を導波路内に誘導することを考えた[7][8]。この穴形成によって導波路の表面積が増えることから吸着する検体の個数も増加するため、より大きな感度の向上が望める。穴のサイズは、入射光の散乱を防ぐため、入射光の波長より十分小さいことが望ましい。よって、可視光を用いる場合、穴径は数10から100 nm程度でなければならない。また、穴はできるだけ深い方が、より大きな面積増加が望めるため、導波路層を貫通する程度に深いことが望まれる。このように直径が小さく、アスペクト比が高いナノ穴を形成する手法として、我々は、高速重イオン照射によって形成された潜トラックのフッ酸蒸気による選択エッチングを用いた[9]。本技術では、直径数10nmでアス電界強度 (arb. unit)x (µm)z (µm)水Au導波路基板ガラス00.050.10.150.20.200.40.60.8-0.2151050図3 導波モード励起時の導波路内電界強度分布。
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