Vol.2 No.2 2009
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研究論文:セラミックス製造の省エネプロセスの確立を目指して(渡利ほか)−146−Synthesiology Vol.2 No.2(2009)無機バインダーの開発では、まず、バインダー評価技術の開発を行い、そのあと、無機バインダー開発を進めています。この研究の進め方は大変示唆に富んでいます。通常の材料プロセスの研究は、材料を開発した後、それを評価しますが、新しい機能を目指す研究では、それの評価技術自体も自ら確立する必要があります。材料合成と評価との関係について、お考えをお聞かせください。回答(長岡 孝明)材料系の探索とその最適化による材料・プロセスの研究開発では、評価試験を数多く行う必要があります。しかしながら、本研究では二つの制約がありました。1点目はバインダー機能の評価方法が定まっていないこと。その結果、生産現場では「最後は実機で押し出して判断する」状況です。2点目は実機での評価には1回あたり多量(数百グラム)の試料を必要とすることです。生産現場では少量と感じられる量でも産総研では時間と労力を考えると容易ではありません。評価試験を数多く行わなければならない場合はなおさらです。そこで、押出成形を行うためのバインダー機能(保形性と流動性)の定義を独自に決め、最小限の試料量でバインダー機能を評価できる手法を開発しました。その結果、有望な試料の絞り込みを少量の試料で簡便かつ迅速に行うことができました。新たなる材料機能の探索、研究室レベルでの機能評価技術がない場合等、研究担当者は評価技術を自ら確立する必要があります。一見遠回りなようですが、評価技術の開発を一緒に進めることにより、研究者は発現する機能の意味を深く考え、評価者に近い視点で材料合成に取り組むことができます。さらには、自分たちが評価技術を蓄積することにより、開発した技術および材料は高度な知識の塊なり、独創性の高いものになると考えます。議論5 ノウハウ的な技術に対して科学のメスを入れることの意義についてコメント・質問(村山 宣光)本研究は、バインダー技術というノウハウ的な技術に対して科学のメスを入れたと言えます。それにより、製造プロセスは進歩することは間違いないことですが、一方で、セラミックス分野で先行している企業のノウハウのオープン化により、それらの企業の競争力の低下をまねく可能性もあります。材料プロセス分野で、経験に頼っていた技術を科学することの意義について、考えをお聞かせください。回答(渡利 広司)査読者のご指摘のとおり、バインダー技術の基礎・基盤研究の取り組みにより、企業の経験に頼っていた技術に対して科学的考察を入れることになり、逆に将来的には日本のセラミックス企業の競争力をそぐことになります。そのため、研究リーダーとして発表する特許および論文の内容を吟味し、共同研究先には充分な説明を行い、了解を得た上で研究成果を公表しています。経験に頼っていた技術を科学すること、つまり技術の科学的本質の把握、技術の体系化および重要因子の抽出は、研究のプロフェッショナルが集まる産総研のような公的研究機関のアウトカムとして極めて重要な意味を持ちます。また、産総研の役割として“死の谷”を科学的な観点と根拠で乗り越えることが求められており、経験に頼っていた技術を科学することにより適切な要素技術や代替技術を提供できると思います。私たちの研究グループと共同研究した企業の多くは “基礎・基盤研究を通じての高付加価値製品の開発および生産効率の向上”を最終目的にし、その結果基礎・基盤研究に対する重要性を認識し、高い研究成果を求めてきました。これは、企業が経験に頼っていた技術を科学することにより、より良い製品を作ること、さらには生産効率を上げることを目指している意志の表れではないでしょうか。一方で、技術ノウハウは企業の貴重な財産であるため、その取り扱いには充分注意する必要があります。議論6 製造ラインの抜本的な変更を伴う革新的な材料プロセスの技術移転についてコメント・質問(村山 宣光)著者らの言われる経済的な死の谷を越えるには、「開発する技術は既存プロセスに組み込まれ、既存製造装置が利用できることを前提とした技術開発」が効率的であることは間違いありません。一方で、製造ラインの抜本的な変更を伴う画期的な材料プロセスの技術移転というパターンもあります。後者の場合、例えば、産総研等の公的研究機関が試作ラインを持ち、製造を実証することが一つの方法だと考えます。この点について、ご意見をお聞かせください。回答(渡利 広司)民間企業の多くは製造ライン等の新規投資は躊躇します。そのため、その技術の重要性および波及効果を考え、産総研等の公的研究機関がプロトタイプの製造装置や製造ラインを立ち上げ、製造を実証することは大変意義のあることと思います。ただ、かなりの投資の額になるために、代替技術の可能性、ユーザーおよび維持費の確保、キーアプリケーションの抽出、市場動向の把握等ビジネスモデルの構築が新規投資を開始する前に必要かと思います。
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