Vol.2 No.2 2009
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研究論文:セラミックス製造の省エネプロセスの確立を目指して(渡利ほか)−141−Synthesiology Vol.2 No.2(2009)とる以前に粒子間に結合が生じることは望ましくない。そのため、外部からの刺激を反応トリガーとして用いることで任意の段階で化学結合を導入するという手法を採っている。反応トリガーとしては、電磁波(紫外線[9]、マイクロ波[10])の照射、100 ℃での加熱[11]などを利用した。紫外線を反応トリガーとした場合、セラミックス粒子にアミノ基、フェニルアジド基を被覆することにより、強い粒子間結合を生じ、強固な成形体の作製に成功した[9]。マイクロ波に反応する有機物質については過去の報告を参照して実験を進めたが、我々はそれを実証することができなかった。そこで、マイクロ波を吸収する高誘電損失物質である水に着目し、水分を含む水溶性カルボジイミドをマイクロ波反応バインダーとして使用した。水溶性カルボジイミドを構成するオキシエチレン( -C2H4O- )は親水性セグメントとなり、マイクロ波を吸収し、自己発熱する。一方、反応性セグメントのカルボジイミド( -N=C=N- )は別の粒子の表面に存在するセグメントと強固に結合させる機能を持つ[10]。紫外線反応バインダーはセラミックスシート等の成形に有効であったが、紫外線は波長が短いため大きな試料の場合内部まで到達しにくい欠点があった。一方、マイクロ波は紫外線に比較して長波長での照射が可能であるため、マイクロ波反応バインダーは大型の成形体の製造に有効であった。これらのバインダーにより作製したセラミックス成形体は有機物質を0.5 wt%程度しか含まず、通常の方法に比べ著しく少ない量の有機物質で成形体の形状を維持できる。当該技術は、我々がこれまで省エネプロセス実現のための要素技術で培った表面被覆技術および反応トリガー技術を応用したものである。5.3 無機バインダー技術次いで、我々は「可塑性付与」の機能(図3)を発現する有機バインダーのゼロ化を目指して、無機物質を利用する無機バインダー技術を検討した。まず、粘土鉱物が可塑性を有することに着目した。粘土鉱物の可塑性発現メカニズムは良く分かっていないが、①粒子表面に形成される水膜の作用、②粘土の層間化合物に起因する滑り等に関係すると考えられている。我々は①に注目し、水を保持できる無機物を検討した。すなわち、新規無機バインダーが保形性と流動性を付与するメカニズムを粘土鉱物の場合と同様に「粒子表面に形成される水膜の作用」と仮定し、材料系の絞り込みにあたっては、粒子表面-水間に相互作用があり、材料中に充分な水を保持できる材料に着目した。このうち、水和物は多量の水を化学的に含有し、さらには構成する元素の化学結合に応じて多系をとる。そのため、水和物は各種のセラミックスに広く対応できると考えた。また、水和物の多くは安価であり、粘土鉱物に比べて純度が高い利点がある。このように研究の開始は流動性と保形性を有する水和物材料技術がベースとなった。“バインダーを制するものはセラミックスを制する”の言葉が存在し、セラミックスの製造プロセスではバインダー技術の重要性は極めて高い。そのため、バインダーの開発指針等はほとんど公表されない。また、バインダー機能は複雑な因子で構成されているため、それを物理的定量性で示すことは困難である。そのため、研究現場および生産現場では、例えば押出成形技術の検討にあたっては「最後は実機で押し出して判断する」状況である。そこで、研究の最初の段階ではバインダー機能(保形性と流動性)の定義を独自に決め、これを押出用治具から押し出される試料の挙動から評価した。この手法は保形性と流動性の相対的な評価と押し出された試料の観察からなるため、物理量の絶対的な評価とはかけ離れている。しかし、少量の試料で簡便に評価できるため、材料の絞り込みと最適条件の探索に非常に有効であった[12]。無機バインダー技術の開発にあたっては、バインダー機能の評価技術をもとに、既存の有機バインダーおよび粘土鉱物と同じ可塑性挙動を示す無機材料を探索することにした。その結果、アルミナセラミックスの可塑性発現には水和物の一つである水硬性アルミナ(ρ-アルミナ)の添加が有効であることを見いだした。水硬性アルミナは水和反応によりアルミナ原料粒子表面に水和物粒子として析出し、その粒子は多量の水を含有し、高いバインダー機能を持つことを明らかにした。その結果、添加量によっては有機バインダーを用いずに図5に示すチューブ状のアルミナセラミックス部材を押出成形することに成功した[13]。さらには、他の水和物においても同様な効果が見られ、各種セラミックスでの可塑性の発現を確認した。5.4 無機バインダー粒子表面の評価技術前節で述べた無機バインダー開発は、その保形性・流動性が無機バインダー表面に存在する水膜によると仮定し図5 無機バインダー技術で作製したアルミナセラミックス
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