Vol.2 No.2 2009
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研究論文:部材の軽量化による輸送機器の省エネ化(坂本ほか)−136−Synthesiology Vol.2 No.2(2009)構成学的な視点から興味ある点は、カルシウム添加によるマグネシウムの難燃化の発見をされたとき、製品化まで見越して、どの程度開発すべき要素技術を設定され、研究計画を立案されたかという点です。また、精製技術以降の研究でも、溶湯表面に形成する酸化被膜の効果を想定して減圧法を選択されたのかどうか、押出し加工による組織の微細化とそれによる鍛造、圧延は、当初からシナリオとして描くことができたかどうかという点も大変関心があります。多くの試行錯誤があったのではないかと想像されます。試行錯誤と必然性の混在が材料開発に関するシナリオの特徴ではないでしょうか。回答(坂本 満)製品化を意識したシナリオというのは、我々研究者は苦手なわけですが、企業にとっては当たり前のことであり、要は最も効率的に最短距離で製品化に結びつくシナリオの策定が当初からできたということが重要です。ただし、最短距離といってもそのルートが荒唐無稽のものであっては元も子もなく、やはり確固とした技術的な裏づけが重要となります。その役割を大学や公設試験研究機関の連携組織が支えるという構図がどうしても必要となると思っています。ここでは連携組織がやはりシナリオを共有しているという点が重要であって、これがないと研究が拡散し、点として繋がりに欠けるものとなってしまうと考えています。議論3 部材の軽量化による省エネ効果についてコメント・質問(清水 敏美)およそ動くものの軽量化を実現するという大命題のもと研究が進捗し、代表的な成果物として難燃性マグネシウム合金を用いた鋳造材として最新鋭新幹線の荷棚受け部品が採用されています。しかしながら、最初の軽量化という意味で漠然とは理解できますが、この部品の採用によりどれほどの軽量化への貢献あるいは省エネ効果があったのか、定量的な数値を加筆していただければ読者の理解も深まると考えます。回答(坂本 満)定量的な数値があれば軽量化による省エネ効果への貢献が明確になるとのご指摘は、まさにもっともなことであり、日頃から我々も常に意識している点です。しかし、省エネ効果を明確に示すことは、なかなか容易なことではありません。例えば私どもとある自動車メーカーとの共同研究での結果では、自動車のレシプロエンジンのピストンのようなものであれば、エンジンのベンチ試験で通常のアルミピストンとマグネシウムピストンとで明確な差が計測されております。ただし、これはあくまで実験であって、ピストンの実用化は未だ開発途上にあります。新幹線車両の場合は1両あたり50トンほどです。この中で難燃性マグネシウム荷棚受け部品の占める重量は15 kgです。これは従来のアルミニウム製をそのままマグネシウムに材料代替したわけではなく、設計が変わり直接比較は難しいのですが、全体でおよそ7.5 kgの軽量化になっております。最新鋭新幹線車両系プロジェクトでは、1両あたり500 kgの軽量化が第一の目標として掲げられ、そのうちの僅か7.5 kgほどではありますが貢献しており、それでも車両メーカーから感謝されたと聞いております。かように軽量化の効果をすぐにというのは難しいのですが、将来様々な部材に使われた時にそれが当たり前のことであったかのように考えられる材料となるものと考えております。議論4 産学官連携スキームについてコメント・質問(村山 宣光)難燃性マグネシウムの発見に興味を示した複数の異業種企業の理解を得て、共通の目標を持つ連携組織を作ることができたことが、本研究の成功の鍵と思われます。連携組織を作るにあたり、知財の扱い、企業間の調整、企業と大学・公設試験研究機関との橋渡し等で苦労された点あるいは工夫された点をお聞かせください。回答(坂本 満)連携組織を作る過程で重要であったことは、まずなにより思想的な方向性の一致が大切であるということです。すなわち、技術の総体としての環境親和性ということが社会的に最も重要であり、難燃性マグネシウム合金の実用化はこの方向に沿うものであるという共通認識を持ちえた企業が連携組織の構成員となっております。企業というのはとかく技術開発とその後のビジネスにのみ関心があるように思われがちで、現に筆者もそのように認識していた面もあるのですが、我々が考える以上に技術開発の根底にある社会的な問題を多面的に捉えて意思決定をすることが日常的に行われており、この構成員も最終的にそのような企業がコアとして残ったわけです。ここにおいては、一方の構成員である大学が、環境親和性という思想的背景を支える役割を担ってくれたことに大きな意味があったと考えています。加えて、連携企業のモチベーションを維持する上では、主役は企業であるという公設試験研究機関の持つ意識が重要であったと考えております。これらを一つのまとまりとしてとらえ、連携組織としての共通の目的意識を維持する努力が重要であると考えます。しかしながら、ビジネスが見えてくるにつれ、役割分担やその後の知財等、実に様々な問題が次から次へと出てくるのが現実です。これについては、とにかくできるだけ情報を共有すること、メンバー同士で粘り強く話し合って、一つ一つ地道に対応してゆくことに尽きると考えます。そのために、あらゆる機会を利用して連携組織全体での意見交換の場を設け、その都度、方向性やシナリオの再確認を繰り返すことが重要であったと思います。
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