Vol.2 No.2 2009
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研究論文:部材の軽量化による輸送機器の省エネ化(坂本ほか)−134−Synthesiology Vol.2 No.2(2009)の間に常温または高温の金属を通して薄く板状に延ばす圧延法で成形されている。マグネシウム合金の板材についても需要は高いが、素材が割れやすいことから圧延が難しくアルミニウム等に比べて圧延工程の繰り返し回数が多くなることから価格が高いことが問題となっている。サイズや精度の面で制約はあるが、熱間押し出しによって直接板材の製造が良好にできることが確認されている。上記の押し出しメーカー2社ともに、板圧1 mm以下のものが容易に製造できている。また、押し出し材をその後に圧延する場合においても、良好な性質を有していることが確認されている。ここでも難燃性合金の利点として、熱間圧延温度でも発火や酸化の心配が少ないため薄板の製造ができ、現在、圧延メーカーにおいて板厚0.1 mmの製品の製造が可能となっている。ただし、板材の製造プロセスは工程数が多いために鍛造材以上にコストの問題が深刻であり、低コストの板材の大量供給には、加工性の良い材料開発から製造プロセスまで、いまだ多くの技術開発が必要である。・押し出し形材を用いた溶接構造体鋳鍛造材や板材・押し出し形材などの塑性加工材を接合した構造体は、自動車や鉄道車両、航空機、各種機械構造体等、さまざまなアプリケーション展開の鍵となる基盤技術である。図12は、アプリケーションの1つとして、鉄道車両の腰掛けの例である。本製品は現行の車両用腰掛け規格をクリヤーし、軽量化に大きく貢献することからJRへ提案し、客先での検討が進められている。ところで、このたった1つのアイテムにも、鋳造材・押し出し形材・板材を用い、曲げ成形やプレス成形が必要であり、接合技術がキーとして重要である。接合は基礎的な接合試験と疲労試験を通じての信頼性補償が必須である。この例ではTIG溶接用語5を採用し、そのための溶接棒の製造も必要であった。また、部位によっては難燃性合金に適した新たな表面処理も施している。このことは、実際の製品開発においていかに幅広い技術の総合が必要であるかを物語っており、すべての要素技術について前記の研究開発ネットワー溶製:金属を、その溶融状態を経て加工すること。溶融金属を型に流しこんで凝固させる鋳物や塑性加工用の金属塊の製造法がこれに当たる。溶製に対して金属の粉末を固めて成形する方法や金属塊を塑性変形させて加工する塑性加工法等がある。冷間加工と熱間加工:金属の塑性加工を行うときの温度域による区別のこと。金属の結晶は室温等の低温域で塑性加工して変形させると、硬度や強度を増加(加工硬化)させることができるが、逆に割れが生じたり加工性が低下する。これに対して高温域で塑性加工すると、強度の向上は望めないものの加工性は飛躍的に高まる。一般に前者を冷間加工、後者を熱間加工と呼び区別される。加工された材料を固有の温度に加熱することにより、結晶内部は歪がない新しい結晶粒へ変化する再結晶と呼ばれる現象が起こる。厳密には、再結晶が起こらない低温域での加工が冷間加工、再結晶が起こる温度以上の高温での加工を熱間加工と呼んで区別する。T4処理:金属の機械的性質をコントロールする種々の熱処理の中の1つ。母材に添加した合金元素を高温で十分に保持して均一に分散させてから急激に冷却する用語説明用語1:用語2:用語3:図12 難燃性マグネシウム合金(AMX602)の鉄道車両用腰掛クの大学や公設試験研究機関における基礎的検討のフィードバックが重要であった。6 残された課題1つの材料を基幹材料として育成するためには、川上から川下まで極めて幅広い技術開発とその蓄積が必要である。その意味では残された課題は何かというより、ようやく開発の入り口に立ったという状況である。ただ、我々は将来に向けて、環境調和型の材料としてマグネシウムを上手に使う技術を培っていかなければならない。そのためには、LCAの観点から原料採取に始まって精錬、加工、リサイクル技術、カスケードリサイクルの社会システム等、材料の全般にわたる広範な技術開発が残されている。特に、現状の精錬工程はチタンやアルミニウムと並んでエネルギー多消費であり、ようやく将来に向けた抜本的な省エネルギー化に向けた取り組みが始まっている。精錬技術に関するわが国の現在のポテンシャルは、過去に比べて格段に進歩しているが、ここでもこれまでにない画期的なブレークスルーが熱望される。一方、個別課題としては、溶湯やインゴットの品質評価技術、低コストの表面処理技術、高信頼性の接合技術、さまざまな材料標準および評価技術の標準化、等々、課題は山積みである。上記の課題を解決し、低環境負荷・低コストプロセスによる基幹材料の産業化を目指したい。
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