Vol.2 No.2 2009
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研究論文:部材の軽量化による輸送機器の省エネ化(坂本ほか)−128−Synthesiology Vol.2 No.2(2009)やさまざまな機械構造材への広範な適用を目指している。これによって、環境負荷の低減を通じてそれ自体が環境調和型である基幹材料の確立と、輸送機器の省エネルギーに貢献する。2 マグネシウムにおける最大の課題マグネシウムの最大かつ深刻な問題は大気中で燃えることである。この性質が、古く戦前から航空機用構造材料として実用されていたにも関わらず、その後の一般民生用途への適用の大きな心理的障壁であったことは確かである。製造技術の面からも、マグネシウムの発火・燃焼性のために溶解・鋳造プロセスは特殊なものとなり、これまでに培われてきた一般の金属材料技術をそのまま流用することは困難であった。難燃性マグネシウムの研究では、マグネシウムを難燃化して通常の大気中での製造プロセスを開発することを核として、産業界に受け入れられる低コストプロセスを確立することを目指してきた。特に、環境負荷の大きな地球温暖化ガスでありながら溶解工程で防燃ガスとして必須であった六フッ化硫黄ガスを用いないプロセスは、今後のこの分野の方向性を決める重大な技術である。これを通じて、マグネシウムの製造技術が特殊なものから一般的な技術へ転換することができる。すなわち、従来の認識である特殊な材料から、誰でも安心して使うことができる基幹材料として、安全で環境に優しい高効率の量産プロセスの確立を目指している。難燃性マグネシウムの製造技術は、作る側すなわち生産現場における安全・安心と、生産の低コスト化(特殊装備が不要となる)にとって福音となるばかりではなく、さらに重要なことはユーザーの視点すなわち使う側の安全・安心を満たすことにある。マグネシウムの発火に対する心理的な不安感に加えて、事故や火災に際しての安全性については、ともすれば見過ごされてきた重要な問題であった。2.1 カルシウム添加による難燃性の発見と難燃化機構難燃性の発見は掘出し物を見つけたようなものであった。アルミニウムに各種のセラミックス微粒子を分散させた軽量金属基複合材料の開発において、溶融アルミニウムにセラミックス微粒子を直接混入して分散させるには、溶湯と粒子表面の濡れ性の改善と溶融アルミニウムの粘性を最適に制御することが重要である。この研究においてさまざまな元素を添加して溶湯性状変化への影響を探索する過程で、カルシウムが主として溶湯の粘性の制御に効果的であることが見いだされ、微粒子分散アルミニウム合金基複合材料の低コスト製造プロセスが開発された。より軽量化を狙ってこの技術を溶融マグネシウムへ適用する過程で、溶融マグネシウムに添加したカルシウムが示す溶融マグネシウムの劇的な性状変化-大気中での難燃性という偶然の発見が難燃性マグネシウム合金の研究の端緒であった。図1には代表的な難燃性マグネシウム合金であるAZX912合金(A;Al,Z;Zn,X;Ca、数値はwt%)の大気中における発火温度を示す。この図から明らかなように、カルシウム添加によっておよそ200 ℃以上も発火温度が上昇する。ここまで発火温度が上昇すると大気中での溶解が可能となる。一方、発火特性と同様に、カルシウムを含むか含まないかで溶融状態のマグネシウムの表面にできる酸化物の様相が著しく異なっている。純マグネシウムの場合、不活性雰囲気で溶解してから速やかに大気中に取り出して燃える前に急冷したものの表面酸化物は、溶融状態で大気に触れた時間がわずか数秒という短時間にも関わらず、極めて厚く成長している。また、その構造は微粒子からなる多孔質であり、酸化物は表面の保護膜とはなり得ていないことを推測させる。この様子を図2の酸化物表面の走査型電子顕微鏡写真に示す。図で(a)、(b)はそれぞれ低倍率の図1 代表的な難燃性マグネシウム合金(AZX912)の発火温度図2 純マグネシウムの酸化物被膜の表面組織カルシウム添加量 ( wt% )発火温度 (℃)溶解温度AZ91+Ca1000800600400200001.02.03.04.05.0(a)PL0022 40KU X50 4 mm100 µm(b)PL0024 40KU X5,000 15 mm1 µm
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