Vol.2 No.2 2009
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研究論文:安心・安全な次世代モビリティーを目指して(佐藤ほか)−123−Synthesiology Vol.2 No.2(2009)ことができるようになるが、走行のリスクは高まる。この設定については、ユーザーのスキルや身体の状態、あるいは単純な好みによって、適切な設定がかなり異なることがわかった。この問題について今後より具体的に議論を進めるためには、先に述べた自動化の問題も含めて、安全性をある程度定量的に評価するための枠組み作りが必要であると考えられる。また、万が一事故が起こった場合の責任の所在に関しても十分に議論を進めていく必要がある。これについては、例えば自動車の運転補助・自動駐車機能や生活支援ロボットなども全く同じ問題を持っている。今後これらの分野とも連携しながら、安全と責任に関する枠組み作りを進め、社会的なコンセンサスを得ていく必要があるだろう。5.2 ユーザーの反応本研究の研究シナリオにおいては、実際に様々なユーザーの意見を収集し、取り入れていくことがスパイラルアップのために重要となる。このため、特に従来の車いすユーザーの意見を収集するために国際福祉機器展(総来場者数は3日間で約10万人)など多くの展示会に出展を行った。当初は「かなり未来志向の提案であり、従来の車いすユーザーに相手にしてもらえないのではないか」といった不安があったが、実際には全くの逆で「このようなものを待っていた、すぐにでも欲しい」、「このような研究をさらに積極的に進めて欲しい」といった感想を多く得ることができた。東京での展示にもかかわらず、わざわざ大阪から車いすで来場された方もいた。先端技術を活用した支援システムに対する強いニーズがそこには存在したのである。来場者からは様々な意見が得られ、新たな研究課題を生み出した。既に紹介したように図17の自動介助機能などはこの過程で生まれたものである。福祉機器は、それ単独ではユーザー層が限られることや、対象者の状態によってカスタマイズが必要になることが多いため、一般の大量生産機器と比較するとビジネスとして成立させることが難しい。このため、切実なニーズがありながらも先端的技術の導入が進まない現状がある。しかし本来はこのようなニーズにこそIT技術やロボット技術が積極的に活用されるべきであり、今後の状況の改善に向けた何らかのスキームを検討する必要がある。そのような意味で、従来の車いすの枠組みに限定するのではなく、新しいモビリティーとして発展的に考えるというコンセプトに対して従来の車いすユーザーからも多くの賛同と期待をいただいた。また、本研究で開発した要素技術群の一部を、マーケットの大きい自動車産業における安全確保技術として一旦応用展開し、高性能・低コスト化した技術を再び電動車いすに持ち帰り適用するというスキームも検討できるだろう。6 まとめと今後の展望全方向ステレオカメラを搭載したインテリジェント電動車いすの開発について述べた。冒頭で述べたとおり、まず従来の研究シーズから初期選択した要素技術を統合・構成し、可能な限り早期に「動く」試作機を完成させることで研究・技術を可視化した。そしてその評価・公表の結果から「創生が必要な要素技術、あるいは改良が必要な要素技術」を見極め、要素技術研究を遂行し、その結果を再度統合・構成するというスパイラルアップ構造の研究戦略を実践した。そこにおいては、必要な要素技術研究が連鎖的に生み出されたが、それらはいずれも直ちに必要とされているものであり、かつ性能の評価基準も明確(発生している問題を解決できるかどうか)であったので、良い効率とバランスで研究を進めることができた。本研究では、室内外の空間において歩行者とも共存しながら安全に移動するためのモビリティーを実現するために必要となる周囲環境を迅速かつ的確にセンシングする技術と、得られた情報からリスクを的確に検出する技術の開発を行い、電動車いすに実装し実証実験を行った。今後全ての人を対象とした新しいモビリティーとして更に発展させるためには、インフラの整備や法規・法令の問題など課題も多く存在しており、今後引き続き検討を進めていく。H. H. Meinel: Commercial applications of millimeterwaves: History, present status and future trends, IEEE Trans. Microwave Theory and Techniques, 43 (7), 1639-53 (1995).下村倫子, 中村 聡, 後藤敏行, 藤本和己, 室 英夫:車載カメラとレーザレーダフュージョンによる前方車両追跡, 電気学会論文誌C, 123(8), 1427-1438 (2003).全方向ステレオカメラを搭載したインテリジェント電動車いす −安心・安全な電動車いすの実現−, 産総研プレスリリース (2006).第2種基礎研究を軸とした本格研究の展開,第1集~第13集,産業技術総合研究所 (2006-2008).[1][2][3][4]参考文献図20 様々な環境下における実験屋内外、多様な環境下での走行実験を実施。左は狭い通路の通過実験。車幅に対してほとんど余裕がないため、安全寄りに設定すると頻繁に自動停止してしまうなど「安全」と「自由」のバランスが難しい。右は屋外の直射日光下における実験。様々な環境変動に対する安定性を評価している。
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