Vol.2 No.2 2009
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研究論文:安心・安全な次世代モビリティーを目指して(佐藤ほか)−114−Synthesiology Vol.2 No.2(2009)で研究シナリオについて述べる。第3章では、試作機を構成するにあたって必要となる要素技術の選択について述べ、第4章でその統合および構成について述べる。第5章では実験と評価について述べ、第6章で本論文をまとめる。2 研究シナリオ本研究は産総研と国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所が中核機関となって実施した文部科学省科学技術振興調整費「障害者の安全で快適な生活の支援技術の開発(平成16~18年度)」の一部として行われた。本研究のプロジェクト内での位置づけおよび責務は「future-orientedな先端技術による福祉機器高度化の可能性・必要性を提示する」であった。すなわち、製品の開発そのものではなく、先端技術が福祉機器にもたらす高度化の可能性について道標を示すことが要求された。その遂行のためには個別の要素技術についてだけでなく、それらを統合・構成したシステムとしてのコンセプトを論文、プレス発表[3]、展示会などを通して社会へ情報発信することが特に重要になると考え、次のような研究戦略をとることにした(図1にモデル図を併せて示す)。(1)可能な限り迅速に必要な要素技術の統合・構成を行うことで早期に試作機を完成させ、評価・公表を行う。(2)評価結果および公表したことによって得られた外部からの意見を基に「創生が必要な要素技術、あるいは改良が必要な要素技術」を見いだす。(3)要素技術の開発・改良に関する研究を行う。(4)(1)に戻る。これまでの我々の研究パターンの多くは、まず要素技術の創生、高度化を行い、次にその展開を検討するというものであったが、この戦略は順序が逆となっている。これは、要素を統合・構成するという、いわゆる第2種基礎研究[4]を起点として、必要な第1種基礎研究を連鎖的に創出する試みであると捉えることもできるだろう。本研究ではまた、従来の「車いす」の枠組みのみに発想をとらわれることなく、健常者も利用する新たなパーソナルモビリティーとしての役割も視野に入れながら研究開発を進めることにした。自動車のように多人数が乗車して道路を移動するのではなく、歩行者とも共存しながら1人で移動するための機器を開発することは、高齢者や障害者だけでなく、全ての人が最小限のエネルギー消費かつ低公害で移動するために重要である。また、より広いユーザーをターゲットとすることで、将来的により大きなマーケットの形成を狙うことが可能になり、高性能化・低コスト化、さらには新しいモビリティーの走行を前提としたインフラ整備などの恩恵を、現状の電動車いすのユーザーが結果として受けることができるようになると考えられるからである。このような新しいモビリティーが室内外の空間において歩行者とも共存しながら安全に移動するためには、周囲環境を迅速かつ的確にセンシングする技術と、得られた情報からリスクを的確に検出する技術が重要となる。本研究では、全方向ステレオカメラおよび画像処理・認識技術群を電動車いすに投入することにより、歩行者や障害物への衝突、段差や階段などによる転倒・転落を未然に防止する機能を持ったモビリティーの実現を目指す。3 要素の選択研究目標を実現するために選択した要素技術群について述べる。なお、後の第4章で述べる要素の統合・構成を行った結果、必要なことが判明し追加選択された要素技術も含まれるが、個別にその旨を記すこととし、本章でまとめて紹介する。図2に実際に選択した要素技術群を示す。電動車いすに対し(1)周囲の環境情報を取得するための「センシング技術」、(2)取得された環境情報から、走行環境における危険などを検出するための「認識技術」、(3)ユーザーに情報を提示するための「インターフェース」をそれぞれ投入することで、周囲の環境を積極的にセンシング・認識する機能を実現する。以下の節でそれぞれの要素技術について具体的に述べる。3.1 全方向ステレオカメラ全方向ステレオカメラ(SOS: Stereo Omni-directional System)[5]-[7]は、筆者の佐藤らが科学技術振興機構岐阜県地域結集型共同研究事業 HOIPプロジェクトにおいて開図1 研究戦略モデル図図2 要素の選択可能な限り早期に試作機を完成させ評価・公表評価結果・外部の意見から「創生が必要な要素技術・高度化が必要な要素技術」を見いだす要素技術高度化の研究を行う第1種基礎研究第2種基礎研究スパイラルアップ第2種基礎研究を起点として連鎖的に必要な第1種基礎研究を創出認識技術危険検知処理ジェスチャ認識処理情報提示インターフェースセンシング技術全方向ステレオカメラステレオ画像処理画像統合処理カメラヘット姿勢推定インターフェース
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