Vol.2 No.2 2009
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シンセシオロジー 研究論文−113−Synthesiology Vol.2 No.2 pp.113-126(Jun. 2009)1 はじめに高齢者や障害者の生活の質(Quality of Life: QOL)向上のための技術開発は社会的に重要な課題であり、先端的な科学技術の活用が望まれている。特に高齢化が急速に進んでいる我が国では、このような取り組みへの社会的な期待が大きい。人間にとってモビリティー(自在に動けること、あるいはそのための手段)は不可欠な要素であり、特に「歩行能力」が失われると自らの意志での移動が極端に困難になり、日常の生活に重大な困難を引き起こす。このような問題は高齢者や障害者のものだけではない。現在は問題なく歩行できる者であっても、交通事故や加齢などによって歩行困難となるリスクは誰もが持っている。すなわち、歩行能力が失われた場合の代替手段を十分に整備しておくことは、全ての者にとっての重要なセーフティーネットとなる。電動車いすは歩行能力の有力な代替手段である。近年急速にその普及が進み、歩行困難な者であっても自由に外出することが可能になりつつある。しかし一方で、その台数の増加に従って歩行者や障害物への衝突、段差や階段における転倒・転落などの事故が増加し深刻な問題となっており、安全を確保するための技術開発が急務となっている。このような走行中の安全確保のための技術開発は、自動車において既に盛んに行われている。例えば、ミリ波レーダーやステレオカメラなどによって前方を監視し[1]、追突の危険性を事前に予測して自動的にブレーキを制御するなどの技術が実用化されている[2]。これに対し、電動車いすは道路を走行する自動車と異なり、人混みや室内など様々な生活空間で用いられるため、その安全の確保のためには次世代のセンシング技術を用いる必要があった。そこで我々は、全方向のカラー画像と三次元情報を全く死角なく同時かつリアルタイムで取得する能力を持つ「全方向ステレオカメラ」を搭載したインテリジェント電動車いすを開発した。この車いすは、室内外の空間において歩行者とも共存しながら安全に移動するために、障害物や段差などを全方向にわたって同時に検出し、危険が認められる場合には自動的に減速・停止する能力を基本機能として持ち、搭乗者の安心で安全な移動をサポートする。本論文では、研究の出発点から試作機を構成するに至った過程について、戦略、シナリオ、工夫等の紹介を交えながら、可能な限り詳細に述べる。具体的にはまず、第2章佐藤 雄隆*、坂上 勝彦全方向のカラー画像と三次元情報を同時かつリアルタイムで取得する能力を持つ「全方向ステレオカメラ」を電動車いすに搭載することにより、高齢者や障害者はもちろん、全ての人が安心で安全に、しかも最小限のエネルギー消費かつ低公害で、歩行者とも共存しながら移動可能とすることを目指した新しい知的モビリティーを提案する。安心・安全な次世代モビリティーを目指して− 全方向ステレオカメラを搭載したインテリジェント電動車いす −Yutaka Satoh* and Katsuhiko SakaueA secure and reliable next generation mobility- An intelligent electric wheelchair with a stereo omni-directional camera system -We propose a secure and reliable next generation smart electric wheelchair system that is equipped with a novel 3D stereo vision system referred to here as a 'stereo omni-directional camera'. The novel vision system is not only intended for use with a new genearation of electric wheelchairs for conventional wheelchair users, but also for use in future advanced personal mobility devices for everyone.キーワード:モビリティー、アクティブセーフティー、福祉機器、画像処理、全方向ステレオカメラKeywords:Mobility, active safety, welfare apparatus, computer vision, stereo omni-directional camera system産業技術総合研究所 情報技術研究部門 〒305-8568 つくば市梅園1-1-1 中央第2Information Technology Research Institute, AIST Tsukuba Central 2, Umezono 1-1-1, Tsukuba 305-8568, Japan *E-mail : Received original manuscript December 18,2008, Revisions received February 12,2009, Accepted February 12,2009

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