Vol.2 No.2 2009
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研究論文:遺跡が語る巨大地震の過去と未来(寒川)−99−Synthesiology Vol.2 No.2(2009)査読者との議論 議論1 「地震考古学」の普及活動について質問・コメント(佃 栄吉:産総研研究コーディネータ)寒川さんの研究成果は、広く社会に認知されマスコミからも継続的に注目され、マスメディアを通して地震災害軽減の普及に貢献されていると思います。地震研究は近年急速に進歩していますが、本格研究として成果が社会に還元され実際に地震災害軽減に結びつくためには、一般国民の地震に対する理解の向上が不可欠で、正しい理解のもとでの長期的(地震に強い住環境など)対策、短期的(地震発生直後)行動に結びつく必要があります。寒川さんの研究はまさに、本格研究として地震災害軽減分野において、非常に重要な貢献と思います。マスメディアとの連携の経験を通した普及活動について、ご意見を開陳していただければと思います。回答(寒川 旭)ご指摘のとおり、マスメディアを通じた普及活動は重要と思います。研究者の講演・著書で専門的な知識を市民に正確に伝えることができますが、多くの人に伝えるという点では新聞・テレビ・ラジオ報道に比べて格段の差があります。その意味で、マスメディアは、研究者と一般市民を繋ぐ架け橋の役割を担っており、研究成果などを広く伝えてくれる大切な存在です。取材があった場合には、十分な説明を行って、こちらの意図が正しく伝わるように心がけていますし、必要に応じて専門的な知識をわかりやすく解説して質の高い報道にしてもらえるよう努力しています。産業技術総合研究所、特に、私の身近で地震に関わる研究を手がけている地質調査総合センターの方たちも取材に対しては丁寧に対応していると感じています。日本列島で暮らす限り、地震に遭遇して命を奪われる可能性がありますから、誰もが地震に関する必要最小限の知識を持つ必要があります。しかし、積極的に知識を得ようとしている人たちは多くありません。地震を難しい現象と考えて、敬遠しがちな人たちへの普及活動こそが大切と思っています。このための手段の一つとして、一般市民にとって興味を持ちやすいテーマとセットにした啓発を心がけています。古墳などの文化財や歴史上の有名な出来事などと、地震との接点を見つけて、関連づけて報道してもらうと啓発の効果が高まります。 議論2 「地震考古学」の構成プロセスについて質問・コメント(小野 晃:産総研副理事長)考古学と地震学とを融合した優れた研究で、新たな研究領域の創出に成功していると思います。異なる2つの学問領域からどのような過程を経て新しい融合領域を創出したかを図なども用いて説明していただけないでしょうか。回答(寒川 旭)図aを作成してみました。考古学と地震学の融合ということですが、地質学の方法論を主体とした地震学ですので、図の左で地震学の下に地質学と小さく併記しました。考古学の遺跡調査では、地表面から下に向かって発掘を進めて遺構と遺物を掘り出し、考古学的な手法によって年代を求め、古記録や古文書との対比を行います。この結果、その地域の歴史に新しい知見を加えることになります。地震学は、含まれる分野も方法論も多岐にわたるので、図aでは項目として研究対象を挙げました。プレート境界、活断層のように地震が発生する場所。さらに、液状化現象や地滑りのように地震によって生じる地変。両方の研究が進展することが、地震の予測や被害の軽減にとって必要です。地震考古学では、遺跡で地震痕跡が見つかった時がスタートです。遺構・遺物の年代を用いて地震痕跡の年代を求め、資料を蓄積して地震史を組み立てます。最近は活断層の履歴調査が進展していますが、断層活動に対比できる地震痕跡も多く見つかります。プレート境界・活断層について、それぞれの地震発生史が、将来の発生を予測するための基礎資料となります。一方、液状化現象については砂が流れ動いた痕跡を観察することで新たな知見が得られます。古墳などのように、本来の形がわかる建造物の地滑り痕跡は、地滑りのメカニズムを考えることに役立ちます。考古学では、地震痕跡そのものが、かつては、意味不明な謎の存在でした。また、地震痕跡が生じた年代を境に集落が消滅・衰退し、湖底から過去の生活を示す遺構が掘り出される、奇妙な形の古墳が存在するなど、考古学の謎のいくつかが、地震という概念を取り入れることで解決できます。また、地震痕跡が豊富で、地震の全体像がよくわかる場合、例えば、679年筑紫地震、1596年慶長伏見地震などは、地震痕跡が西暦年月日を示す指標として、逆に、考古学の細かな年代推定に役立ちます。議論3 液状化以外の地震痕跡について質問・コメント(小野 晃)本論文では遺跡に対する巨大地震の痕跡として主として液状化現象が述べられていますが、その他の痕跡もあるのでしょうか。回答(寒川 旭)遺跡の調査では液状化現象の痕跡が特に多く見つかります。液状化現象は地下水の豊富な柔らかい砂層で発生します。私たちの祖先は水の豊かな平野地域を生活の拠点としていますから、居住地の周辺でこの現象の痕跡が多く見つかります。そして、液状化現象で地面に流れ出した噴砂の痕跡によって地震の年代を特定することができま歴史の謎の解明液状化跡の観察地震の将来予測活断層調査遺跡の地震痕跡調査(アウトカム)考古学への貢献地震の予測と被害軽減(地震考古学)地滑り跡の観察活断層との対比地震の年代推定地震史の作成地滑りの調査液状化現象の調査プレート境界地震の調査歴史に新知見記録との対比年代の推定遺構・遺物調査(要素技術)地質学地震学考古学地震痕跡調査遺跡発掘図a 地震考古学における構成のプロセス

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