Vol.2 No.1 2009
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研究論文:創薬の効率を飛躍的に高めた化合物スクリーニング計算(福西ほか)−67−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)であり、また製品化研究としても同時に、非常に優れた研究と思います。標的蛋白質が今後次第に明確にされていく中で、本データベースの価値は一層増すものと期待します。回答(福西 快文)化合物データベースは、人類が過去にどのような分子を合成したか・合成することができたか、という知識のプールです。直接、医薬品探索に用いるだけでなく、どのような分子が合成しやすいのか、どのような分子を人類は思いつかなかったのか、を考えるときの基礎となって新しい研究領域が開けることも期待しています。議論2 未知化合物の予測コメント・質問(小野 晃)この化合物データベースは、特定の標的蛋白質と、用意された多数の化合物の間の化学的結合の強さを効率的に調べるもので、医薬品の発見率が飛躍的に向上しました。一方、この化合物データベースを使って、特定の標的蛋白質に対してより強く結合するような未知の化合物をユーザーが予測するといった使い方も可能でしょうか。回答(福西 快文)未知の化合物を予測できる可能性はあります。特定の標的に対し薬物探索を行った場合、そのヒット化合物群が、共通の特徴を有する化合物集団に分類される傾向がありました。これらの集団の特徴を兼ね備える未知の物質を合成デザインするという研究の方向はありうると思います。議論3 データベースの改良可能性コメント・質問(小野 晃)4.3節で述べられていますが、データの正確さを過度に追求することの無意味なことは重要な指摘と思います。その意味で、このデータベースの作成におけるいろいろなプロセスをさらに見直して、目的に対してより合理的にする余地は今後もありうると考えてよいでしょうか。回答(福西 快文)データベースを目的に対してより合理的にする余地はあると考えます。現在は、分子が水中においてとりやすい分子形(水素原子のつき方など。カルボン酸なら-COOH → -COO−)を作成していますが、蛋白質と結合する場合は分子形が変化することが知られています。最近では、強く電荷を帯びた蛋白質ポケットを標的とする薬物ドッキング計算が難しいので話題になっています。負電荷を帯びたポケットの中ではカルボン酸が、-COOHになる場合があります。標的蛋白質に対して、可能性の高い分子形を準備することは重要になると思います。議論4 先行する海外データベースとの比較コメント・質問(小野 晃)4.11節で、本データベースを使ったスクリーニングはランダムスクリーニングに対して40倍、あるいは70倍の発見率の向上が図られたとしています。一方、化合物データベースとして海外で先行的に開発されてきたものに対して本データベースは、どの程度発見率の優位性を持っていると評価されますか。回答(福西 快文)通常、計算による予測化合物が外れた場合、文献として公表されないため、データベースの優劣の詳細な比較は難しいです。我々の場合、計算による予測化合物を100-300種類購入した場合の活性化合物の発見率は3 %-30 %になります。今までに、発見率が0 %であった標的は5標的中1標的程度です。論文で見かける発見率は高々10 %で、計算による予測は2標的当たり1標的程度で有効とされているようですので、海外での事例に比べて有効性が高いと考えられます。議論5 互変異性体とイオン化状態の考慮コメント・質問(広川 貴次)本分野では、海外の市販データベースやソフトウェアが大きなシェアを占めつつありますが、ここまで高品質の化合物データベースおよび他に類を見ない独創性の高い蛋白質−化合物相互作用行列データベースが日本発で公開されていることは大変素晴らしいです。論文中で記載されている各プロセスは、化合物を電子的に取り扱う際に問題となる様々な問題について十分に対応されており、研究者が安心してデータベースを利用できる優れた内容になっています。製品化研究としても高く評価できます。化合物の水素付加について互変異性体(Tautomer)や全体としてのイオン化状態(pH7.0を前提としているのか等)の取り扱いは、4.4節の「我々は、様々な官能基の…正確に生成するようにした。」という説明の範囲で考慮されているのでしょうか。回答(福西 快文)イオン化状態は、pH7.0を前提にしています。しかし、正確なpKa予測は困難なため、分子全体でのpKa予測を行うのではなく、分子に含まれる各官能基のpH7.0での代表的な構造を適用するようにしています。互変異性体も同様な取り扱いになっています。よって、科学的にはまだ厳密性は追求されていないのですが、babel/openbabelといったオープンソフトが高エネルギーな状態を頻繁に生成するのに比べると、精度は上がっています。議論6 選択性の悪い化合物群の予測コメント・質問(広川 貴次)4.11節のタンパク質-化合物相互作用行列の計算の活用事例として、例えば、多くの標的蛋白質に結合しやすい選択性の悪い(良い場合もあるかも)化合物群がこのデータベースを利用して予測できるのであれば、in silico frequent hitterやin silico chemical alert for target selectivityといった独自性の高いアノテーションが考案できるのではと思います。既に実施しているかも知れませんが、その可能性について議論いただくことは可能でしょうか。回答(福西 快文)frequent hitterは、VSにおいて数十%も出現し、経費の無駄とスクリーニング実験の障害となっています。我々のスクリーニングでも、予測化合物の約20 %がfrequent hitterと報告されています。現在、文献から数十のfrequent hitterとされる分子を収集し、立体構造の作成をしています(J. Med. Chem. 2003, vol 46, page 4477-4486, J. Med. Chem. 2002, vol45, page 137-142)。データが揃い、タンパク質−化合物相互作用行列の計算に混ぜることができれば、これらがどのタンパク質にも強いスコアを示すような特徴が現れるかも知れません。しかし、frequent hitterは電子顕微鏡で観察すると、多くがミセルコロイドを形成しており、ミセルがタンパク質に張り付くことでfrequent hitterとなるのでは、という報告もあります(J. Med. Chem. 2002, vol 45, page 1712-1722)。もし、単分子で存在する化合物がタンパク質に対して非選択性を示すのがfrequent hitterの本質ならドッキング計算で解析が可能と思いますが、ミセル形成がfrequent hitterの原因なら、無限希釈状態に相当するドッキング計算ではfrequent hitterを識別できない可能性があります。今のところ分子記述子を用いた溶解度予測をfrequent hitterに適用してみたところ、疎水性が強い分子ほどfrequent hitterであり、frequent hitterでない医薬分子と区別される傾向が見えてきました(CBI学会2008年大会 P1-06)。水への溶解性がfrequent hitterを決めているのなら、ミセル形成が主たる原因となります。ドッキング計算のほうが、より鮮明にfrequent hitterを区別できる可能性は残っています。少し時間はかかりますが、本件の検討を進めたいと思います。 化合物の非選択性からくる副作用の解析については、MTS法及びDSI法での検討を行ったことがあります。今のところ、余り明確に現象が見えていません。非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)の代表的な
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