Vol.2 No.1 2009
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研究論文:創薬の効率を飛躍的に高めた化合物スクリーニング計算(福西ほか)−65−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)白質に対しても適用することができる。またMTS法と同様に、DSI法は既知化合物の発見率を最大化するようにスコアを修正する手法と組み合わせることができる。前述した蛋白質にGPCRを加えた計14種の標的蛋白質に対してDSI法を適用した結果、化合物ライブラリーから予測上位1 %の化合物を採択したとき、ランダムスクリーニングに比べて平均約70倍の発見率の向上を得ることが示された[17]。5 目標にどれだけ近づいたか我々は現時点で当初の目標の90 %以上を達成したと言える。我々の最初の化合物DBは2004年にリリースされ、ただちにTNF−α converting enzymeという標的蛋白質のスクリーニングに投入された。182種類の蛋白質と100万化合物の蛋白質−化合物相互作用行列を用いて、MTS法とDSI法が適用され、900種類の化合物を購入し、そこから35種類の活性化合物を得ることができた。これは、先に行われた10万化合物のランダムスクリーニングで7種類の活性化合物を得た結果に対して約500倍効率が高く、また別に行われた市販ソフトGlideによるスクリーニングで700種類の化合物を購入し、活性化合物が一つも得られなかったのに比較して、格段の発見率の向上が得られた。その後、化合物DBは毎年更新され、現在は2007年度版となっている。6年間に、我々は10種類近くの標的蛋白質について直接スクリーニングを行ったが、いずれも数 %~20 %という確率で活性化合物が得られた。これはランダムな実験よりも数百倍から千倍以上の高い確率である。また、化合物DB及び蛋白質−化合物相互作用行列は、毎年製薬メーカーを中心に、国内外の10ないし20の機関に配布が続けられている。ソフトウェア類はmyPrestoとして[18]、化合物DBはLigandBoxとして一部が公開されている[19]。6 やり残したこと第一に、我々の化合物DBは、亜鉛などの金属を含むメタロプロテアーゼの阻害剤に向いていない。分子のイオン形は水中での支配的イオン形になっているが、金属に配位するときのイオン形は異なる。水中ではチオール(-SH)は通常-SHだが、金属に配位すると、脱H化した-S-である。このような金属配位におけるイオン形の変化はいろいろな官能基で見られる。メタロプロテアーゼのVSにおいて、発見率はイオン形の良し悪しに強く依存することを我々は突きとめた。そこで、メタロプロテアーゼ用の化合物DBを開発しようとしている。第二に、我々の化合物DBは無機化合物を含んでいない。金属錯体のような無機化合物は一般に薬になりにくいとされ、通常、化合物DBから除外する。しかし、近年、ペプチド以外の活性化合物が一切知られていないインシュリン受容体蛋白質の活性化合物として亜鉛錯体が発見されるなど、無機化合物の新たな可能性が知られるようになってきた。無機化合物の可能性を検討するためにも、無機化合物のDB化が必要だと感じている。第三に、我々の化合物DBの配布は口コミにのみ依存し、論文、ホームページなどで認知されていないことである。これは、我々の化合物DBが、商社から提供されるカタログデータに依存しているためである。カタログの配布は試薬の販売目的に限られ、試薬ベンダーの広告を貼る必要がある。ZINC[20]は、試薬ベンダーとの直接交渉により、大学のホームページ上に試薬ベンダーの広告を張ることで、無償ダウンロードを実現している。産総研は、私企業の広告ができないことから無償ダウンロードはできず、ユーザーが独自に入手したカタログに対し、産総研がデータベース化サービスを行ったとして、化合物DBを配布することになっている。研究助成を受ける共同研究先の社団法人から配布する手段はあるが、試薬ベンダーと交渉する力はない。産官学連携の中では、私企業との関わりは避けられない。こういった問題も将来の課題と思える。 謝辞本研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)及び経済産業省の援助によって行われた。図5 MTS法とDSI法の概念図表の数字は、スコア。強いスコアは濃い色で表示した。-2.1-2.9-8.2-8.1-2.2-9.3-6.6-2.2-0.4-6.610-8.2-8.8-0.2-4.4-0.7-8.1-0.2-0.4-6.6-0.29-8.1-8.9-4.4-5.4-0.6-4.4-7.2-0.5-2.8-7.28-4.4-4.3-5.4-7.5-4.3-5.4-4.4-4.3-3.2-2.17-5.4-5.1-8.1-0.4-5.5-2.1-5.4-5.5-3.3-8.26-6.6-6.1-8.4-6.6-0.4-3.8-8.1-6.1-0.9-8.15-0.2-0.9-4.3-2.8-4.4-5.1-8.4-0.1-7.5-4.44-7.2-7.5-0.9-3.2-5.4-0.4-0.9-5.5-0.2-5.43-2.5-2.1-7.5-5.1-6.6-6.6-7.5-2.1-8.1-8.42-3.3-3.8-2.1-6.1-2.8-2.8-2.1-3.5-4.4-4.31-9.2-9.6-3.8-0.9-9.9-3.2-3.8-9.1-1.2-0.9TargetproteinKnownactivecompound987654321化合物データベースMTS法でのヒット化合物DSI法でのヒット化合物類似化合物タンパク質集団用語説明2次元SDファイル:分子の元素名、XYZ座標、結合次数、光学活性中心、整数化した原子電荷を記載する分子を記述するファイル。蛋白質−化合物ドッキングソフト:蛋白質の立体構造に対して化合物を蛋白質表面付近に配置し、エネルギー的に安定と思われるもっともらしい蛋白質−化合物複合用語1:用語2:

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