Vol.2 No.1 2009
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研究論文:創薬の効率を飛躍的に高めた化合物スクリーニング計算(福西ほか)−63−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)遷移状態にもパラメータを割り当てる能力がある。4.6 3次元構造の生成分子に力場パラメータが与えられると、3次元分子構造を生成することができる。我々は、分子動力学シミュレーションソフトウェアcosgene[9]を既に開発しており、cosgeneによるエネルギー最適化で3次元構造を生成した。初期座標にランダムな変位を加えないと、(X、Y)座標データのみの2次元構造式のままではZ軸方向の力が発生せず、3次元構造は発生できない。生成した3次元構造は構造の妥当性(原子間距離や結合角度など)をチェックするソフトにかけ、歪んだ構造を生成した場合は初期座標を作成しなおし3次元構造の生成を再試行した。4.7 光学異性体の判定と、異性体の発生炭素原子など結合が4本ある原子のそれぞれの化学結合に異なる分子断片が結合している場合、その中心原子が光学活性中心となる。したがって、中心原子に結合する4つの結合の先の分子断片の同一性判断が必要になる。我々の開発した手法では、中心原子の結合を切断し、その先の分子断片の同一性比較を3.2節と同様の手法で行う。中心原子が環に含まれる場合はやや複雑になるが、ほぼ同様の手法で行った。光学活性中心が1つならば、各原子の座標(X, Y, Z)を(X, Y, -Z)とすることで鏡像体を生成できる。光学活性中心が2つ以上ある場合は、結合の付け替えをする必要があり、新たに開発したソフトウェアconfgeneCでこれを行った。4.8 量子化学計算による原子電荷の計算量子化学計算では、分子構造に加えて、分子の電子スピンと電荷が必要である。創薬に用いる分子はラジカルであってはならず、磁性をもつ分子もまれなので、分子のスピンは0の閉殻系とした。分子の電荷は、系が安定となる電荷を化学結合から自動計算する手法を開発した。分子全体の電荷は各原子の形式電荷の和とした。たとえば、炭素原子の形式電荷は、化学結合の本数の和が4であれば0、3本であれば+1とする。窒素の電荷は、化学結合の本数の和が4であれば+1、3本であれば0とする。酸素の電荷は、化学結合の本数の和が2であれば0、1本であれば-1とする。こうして得られた形式電荷を分子全体で和をとって、分子の電荷とした。原子電荷の計算方法にはいろいろある。Gasteiger法[10]では、原子に電気陰性度を振って、有機電子論にのっとって、原子同士が互いの電子を引っ張り合い、平衡状態となる電子分布を求める。荒っぽい見積もり方法で、たいていの分子で1秒未満で計算できる。半経験的量子化学計算ではMOPAC [11]のAM1モデルとPM3モデル(最近ではPM7)が有名である。PM3モデルは分子の生成熱を再現するように有効ハミルトニアンをパラメータフィットした優れた手法だが、アミド結合など医薬品に普通に見られる構造を正しく計算できない。AM1モデルは同じく有効ハミルトニアンをパラメータフィットした手法で、生成熱の予測は不正確だが、アミドなどの構造は正しく計算される。ただし、窒素を含む環構造では、場合によって不正確な場合がある。計算時間は、分子構造を固定した場合、通常、数秒-数十秒で済み、原子の大きさNに対して計算量はN3に比例する程度である。電荷の精度はかなり高い。第一原理量子化学計算では、一般にはRHF/6-31G*による波動関数の計算とRESPによる部分原子電荷計算法が用いられる[12]。相当正しい電荷を与えるが、分子構造を固定した場合、通常、計算時間は数分-数十分かかり、原子の大きさNに対し、計算量はN4に比例する。原子電荷は、蛋白質-化合物ドッキングで正しい計算ができなければ意味がない。そこで、132種類の蛋白質-化合物複合体のドッキング計算を、我々の蛋白質−化合物ドッキングソフト用語2sievgeneで行った[13]。その結果、RHF/6-31G*では正しい構造が56 %の確率で得られ(精度2 Å)、MOPAC AM1電荷では2-3 %劣る程度、Gasteiger電荷でも5 %劣る程度であった。1万化合物程度の小規模な薬物スクリーニング実験もシクロオキシゲナーゼ2、サーモライシンなど数標的で行ってみたが、ヒット率は電荷が正確なほど良いが、Gasteiger電荷でも数 %劣る程度であった。数百万分子の原子電荷計算をしなければならないので、高速で計算できるに越したことはないし、RHF/6-31G*ほどの精度にこだわる必要がないことは分かったが、化合物DBは全ての基礎となるため、MOPAC AM1電荷を採用することにした。なお、通常MOPACはMOPAC専用の入力形式を必要とするが、我々はMOPACを改良して、創薬分野において化合物を表現する標準的なmol2ファイル形式で入出力できるようにした。このためのMOPACの改良用パッチファイルも無償で提供している。4.9 等価原子の判定メチル基における3つのH原子は、化学的に等価で同じ電荷を持つようにしなければならない。原子の等価性の判断は原子電荷の計算に必要である。任意の原子iと原子jとが等価であるという意味を次のように考える。原子iと原子jが、i=jのとき等価であることは自明である。そうでないとき、原子iと原子jが直接結合していないならば、原子iに結合する全ての原子が原子jに結合する全ての原子と等価であること、原子iと原子jが結合しているときは、それ以外の全ての結合する原子が互いに等価であることである。等価原子の判定の方法は、以下の通りである。任意の原
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