Vol.2 No.1 2009
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研究論文:創薬の効率を飛躍的に高めた化合物スクリーニング計算(福西ほか)−62−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)なる。化学組成式の比較は速い方法である。組成が違えば、それ以上の同一性判断をする必要はない。組成式も、文字列比較では時間がかかりすぎる。 我々は、各元素について原子量を小数点以下3桁まで、近似的に末尾がゼロでない数字を入れて分子量を計算し、1分子あたり6桁の数字を割り振る手法を開発した。化学組成式の文字列比較をしなくても、分子量を1回の計算で比較することにより実用上、組成式の比較をほぼ間違いなく済ますことができた。4.3.2 グラフ不変量による分子トポロジーの同一性判断化学組成式が一致しても、構造式が異なる場合がある。分子のグラフを比較するにはグラフを重ね合わせればいいわけだが、分子グラフの重ね合わせ計算は計算時間が原子の数の多項式で記述できないNP(Non-deterministic Polynomial)完全問題である。一般に、計算時間が多項式時間の場合は高速なアルゴリズムが存在するが、NP完全の場合は効率的アルゴリズムが存在せず、非常に時間がかかる[3]。そこで我々は、分子の結合行列M(原子iとjが結合しているなら、M(i,j)=1、結合がなければM(i,j)=0)を用いることで分子のトポロジーを比較する方法を開発した(図2)。分子のグラフにおいて、原子番号の順番は意味がないのでグラフの不変量を計算すればいいわけだが、結合行列はエルミート行列なので、行列固有値を求めればこれが不変量となる。グラフ不変量としては細谷インデックスなどが知られているが計算しにくい[4]。固有値計算は原子数Nに対してN3の計算量ですむので実用的である。行列の次元を半分程度に減らすためにH原子を除き、原子の種類を反映させるため、対角項には原子の原子番号を代入した。4.3.3 幾何異性体の判別4.3.2でグラフのトポロジーをほぼ正確に判別できるようになったが、シス/トランスなどの幾何異性体を判別できない。そこで我々は、幾何異性体を判別できるグラフ不変量を開発した。2重結合している原子i、jについて、4本の結合の先にある部分グラフ断片の部分グラフ行列最大固有値の順に、1、2(1’、2’)と番号を打つ(図3)。そして1→2ベクトルと、1’→2’ベクトルが平行ならi-j行列要素は-2、逆平行なら+2とすることにより、全体のグラフ行列の固有値から幾何異性体を判別できるようにした。4.4 水素原子の付加2次元構造式のC、N、O、Sなどの原子に対し、結合次数から不足するH原子の数を予測し、H原子を付加すべき原子と、それに隣接する原子との位置関係から、もっともらしいH原子の座標を計算して分子に加えることにした。H原子を付加するソフトウェアは、babel [5]/openbabel[6]など各種あるが、H付加が必ずしも正確でない。我々は、様々な官能基のH化状態を調査し、真空中及び水中(pH 7.0近傍)で支配的イオン形をとるH付加状態を生成するようにした。分子全体の正確なイオン形の予測は困難なので、各官能基ごとに代表的イオン形を適用した。2次元化学構造は、あくまで模式図であるので、原子間距離は1 Åであったり10 Åであったりする。そこで、化学結合の平均距離が1.5 Åになるようにスケールした。4.5 力場パラメータの付加分子の2次元構造式から3次元構造を生成することは、分子力場によって行うことにした。我々の化合物DBは、立体構造作成のためにGeneral AM BER force field (GAFF)を用いている[7]。開発当初(現在もだが)、ほとんど全ての分子に対して、GAFFのパラメータが存在せず、分子構造が決められなかった。そこで我々は、結晶構造データベースCSD[8]と、手作業で作成した660種類の分子を第一原理量子力学計算で構造最適化計算して正しい分子構造情報を得て、原子タイプ、力場パラメータ、パラメータのないとき全ての原子にパラメータが割り振られる仕掛けの追加を行い、99.9 %以上の分子を扱えるようにした。また、力場パラメータの整備に加え、一般の化合物に力場パラメータを割り当てるソフトウェアtplgeneLを開発した。なお、tplgeneLは、酵素の研究のために、化学反応図2 分子グラフから結合行列Mの作成図3 幾何異性体の判別→は、部分グラフの固有値の順を示す0 1 1 1 01 0 1 0 01 1 0 0 01 0 0 0 10 0 0 1 0結合行列 M分子グラフ12345トランスシスM(i, j)=-2M(i, j)=2HCH3ijCH3Hij121’2’HCH3ijH3CHij121’2’

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