Vol.2 No.1 2009
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研究論文:蒸留プロセスのイノベーション(中岩ほか)−57−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)石油化学(株)、関西化学機械製作(株)の3社が受託)により進められた。1999年12月には、丸善石油化学(株)千葉工場内に塔径約300 mmで高さ約25 mのプロトタイプ実験塔が建設され、ベンゼン/トルエン系で300 kg/hの小規模な処理量ながら、世界で初めて100時間以上安定した連続運転に成功した。この成果を発展させるべく、経済産業省とNEDOにより地球温暖化防止新技術プログラム/内部熱交換による省エネ蒸留技術開発プロジェクトが、著者らの1人をプロジェクトリーダーとして2002年9月に開始された[16]。参加した民間企業は、石油・化学産業分野をターゲットとした木村化工機(株)・丸善石油化学(株)・関西化学機械製作(株)の3社と、空気分離をターゲットとした日本酸素(株)(現大陽日酸(株))と(株)神戸製鋼所の2社である。プロジェクトでは、主に規則充填物を用いた濃縮部を胴側とし回収部をチューブ側とする図8 a)に示すような二重管構造の基本設計について検討を行った。2003年度末には、丸善石油化学(株)千葉工場に12成分系を対象とするパイロットプラント(図8 b)参照)の建設が決定された。この試験装置は、図8 c)に示すように7本の二重管を束ねた形状になっており、気液の負荷に合わせて内管径を3段階に変化させ、各部分の塔負荷を調整するなど、PIを実現するための種々の装置上の工夫に基づいて製作が行われた。 パイロットプラントの建設は順調に進み、2005年度には試験運転が行われた。最終的に1000時間の連続運転を達成し、さらに条件変動運転や外部の熱源を全く用いない運転等も行い、いずれの場合も設計時に想定した省エネ性能を実証する運転を安定的に行うことができた。運転結果で得られた省エネ率は、1次エネルギー換算で既設蒸留塔と比較して62 %であった。投入電力約30 Mcal/hに対して削減リボイラー熱量は290~320 Mcal/hとなり、投入電力量と得られた加熱量の比(ヒートポンプの成績係数)では約10の高い値が得られている。NEDOプロジェクト終了後には、産総研と上記の石油・化学産業分野3社、及び新たに三菱化学(株)と東洋エンジニアリング(株)の2社が加わった6者体制の共同研究(コンソシアム)が開始され、本格的な実用化と普及体制について検討を行った。成果は各社に持ち帰られたが、まず木村化工機(株)が2008年度より商用機の営業活動を開始している。一方、諸外国でも地球環境問題への対応を背景に、近年、HIDiC研究開発が検討されており、特にオランダではHIDiCプロセスの実用化研究が2002年1月より開始され、現在第2期研究開発を実施中である。このプロジェクトには、デルフト工科大学やECN国立研究所を中心として欧州の有力企業が参画している。なぜわが国だけが先頭を切って実用化に目途をつけることができたのか? その解答は明確ではないが、著者らはHIDiCの持つ蒸留と熱移動を同時に達成するという特徴の実現に向けた戦術の相違にあると考えている。1980年代の米国や90年代の欧州での研究では、濃縮部と回収部の熱移動をいかに大きくするかに研究の主眼が置かれ、結果として物質移動すなわち蒸留性能への考慮が不足していたと考えられる。例えば、1980年に出された米国特許では[17]、濃縮部と回収部間の熱移動に多数のヒートパイプを用いている。これにより熱移動量は十分に確保できるであろうが、ヒートパイプによる塔内流れの阻害及び装置製作上の困難さから実現は極めて困難である。これに対してわが国では、シミュレーション技術を駆使して従来の蒸留塔HIDiCの基本フロー(内管部分が通常塔の上部、ドーナツ状部分が通常塔の下部)c)b) a)パイロットプラントの内部構造(7本のチューブユニット)パイロットプラント全景(丸善石化(株)千葉工場)外筒回収部充填物内管(伝熱面)濃縮部充填物製品製品圧縮機原料熱の流れ液の流れ蒸気の流れ図8 HIDiCの内部構造とパイロットプラント

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