Vol.2 No.1 2009
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研究論文:蒸留プロセスのイノベーション(中岩ほか)−55−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)装置の基本構造はまったく異なるが、理想状態からの「デチューニング」の考え方に立てば共通した方法論に基づくものとして整理できるのである。それでは他に「デチューニング」は考えられないだろうか。VRCの「デチューニング」のポイントは、濃縮部の1箇所と回収部の1箇所で熱を移動させることであった。熱移動を行わせる箇所を1箇所ではなく複数にすれば、より理想状態に近づけることができる。しかし、それには複数個の圧縮機が必要となり現実的ではない。そこで、多数の箇所での熱移動を可能とする現実的な装置構造を検討するために、もう一度通常の連続蒸留塔(図2参照)の特性を考えてみる。通常の連続蒸留塔は、高さ方向の濃度変化により上に向かって塔内温度が連続的に低下する。この特性は可逆蒸留操作でも同じであり、濃縮部の冷却温度は回収部の加熱温度より必ず低い。したがって、濃縮部から取り出した熱をそのまま回収部の加熱に用いることはできない。図5ではこの問題を解決するために、圧縮機 (ヒートポンプ)による昇温を利用している。それでは多数箇所での熱移動をシンプルに達成するにはどうすればよいであろうか。図5a)では、濃縮部の多数の冷却点の全てが回収部の多数の加熱点の全てよりも温度が低くなっている。もし濃縮部の温度が回収部より高ければ、冷却点からの熱はそのまま加熱点に供給することができる。濃縮部の温度を高くすることは可能であろうか。蒸留分離は気液の平衡関係を利用しており、圧力を上げれば同じ組成で平衡温度を高くすることができる。したがって、濃縮部の圧力を回収部よりも高くすればよいことになる。そのためには濃縮部と回収部を分割し、濃縮部の圧力を全体で熱移動が可能となる温度まで上げればよい。こうすることで、濃縮部で取り出された熱は直接回収部に供給することが可能となる。濃縮部全体の圧力を上げるには回収部からの蒸気を圧縮すればよい。それに必要な圧縮機は1機で十分である。 濃縮部の温度が回収部よりも高くなれば、熱移動には様々な方法が考えられる。最もシンプルなものは、濃縮部と回収部を直接接触させる方法であろう。このように、圧縮操作を加えることにより可逆蒸留操作をほとんどそのまま具現化し、省エネ化を中心とした「高効率化」を目指したものがHIDiC(図6参照)なのである[14]。著者らは、これもまた一種の「デチューニング」であると考えており、図1のAに相当する。また、HIDiCは蒸留と伝熱さらにヒートポンプの三者を「統合化」したプロセスと捉えることもできる。HIDiCでは、塔頂と塔底の温度差が小さく蒸留分離の困難な溶液系ほど省エネ化が図れる。比較的沸点差の小さなプロピレン/プロパン混合系では、通常の蒸留塔と比較して1/10程度のエネルギーで分離できるとの結果が得られている。表1には、HIDiCとVRC及びPetlyuk塔の特徴を簡潔にまとめて示した。表中の「イニシャルコスト」は、蒸留塔本体の製作費である。蒸留塔の建設一式で考えると、このほかに配管や計測等のコストが必要であり、本体価格差ほどの差にはならない。また、「適用性」は工業的に適用可能な溶液系の分離仕様の範囲の広さを表している。HIDiCは、塔の高さ方向の温度勾配がおおむね均一になるような系に特に向いている。石油化学工業の主力製品であるベンゼン/トルエン/キシレンの混合溶液や、粗シクロペンタン精製を含む多くの蒸留分離はこの条件にあてはまる。またPetlyuk塔は低濃度の不純物除去には向いており、VRCは沸点差の小さな溶液の分離に適用性がある。通常の蒸留塔は、これらより適用性は広く一般論としてイニシャルコストも有利な場合が多い。HIDiCは可逆蒸留操作の概念をより忠実に具現化しており、Petlyuk塔と比較すると省エネ性能・適用範囲とも上回り、またVRCの問題点である必要な圧縮による昇温幅の点で大き圧力を操作することにより、濃縮部における廃熱を回収部で自己再利用し、エネルギー消費量を大幅に削減することができる。(約30 %の省エネ効果)リボイラで加えられる熱の大部分は、濃縮部における廃熱として利用されずに捨てられている。内部熱交換型蒸留塔(HIDiC)現行蒸留塔原料製品Aコンデンサ濃縮部回収部(常圧)リボイラ製品B製品A製品B原料濃縮部回収部(常圧)熱移動(高圧)b) 蒸気再圧縮プロセスa) 多数の圧縮機を持つプロセス1台の圧縮機塔頂へ回収部濃縮部多数の圧縮機原料図5 多数の圧縮機による可逆蒸留操作へのアプローチ図6 内部熱交換型蒸留塔 (HIDiC)
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