Vol.2 No.1 2009
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研究論文:蒸留プロセスのイノベーション(中岩ほか)−54−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)連続的な加熱を行うと、理論的に最も効率的な蒸留操作が可能であることが示されている[9][10]。この操作は可逆蒸留操作と呼ばれ、具体的には段数無限大の蒸留塔を用いて濃縮部の段ごとでは無限小の熱量による冷却を行い、回収部の段ごとでは無限小の熱量による加熱を行うことになる。これが熱力学的に理想条件での連続蒸留操作であり、蒸留塔の省エネルギー化がどのような形で進められようと、また新規な省エネルギー化手法が今後開発されるとしても、最も効率の高い操作は可逆蒸留操作である。どのような省エネルギー化技術であっても、省エネルギー化が進めば進むほど可逆蒸留操作に近づくことになる。言い換えると、蒸留プロセスの省エネルギー化とは、経済的に成立する範囲内でいかにプロセスを可逆蒸留操作からそれほど性能を落とさずに「デチューニング」するかということになる。ただし、蒸留操作の本質である「物質移動」操作に、加熱・冷却といった強制的な「熱移動」操作を持ち込むことは大きな変化を与えることになり、その影響をどのように考えるかが効果的なプロセスの達成に非常に重要となる。したがって次のステップは、この点を踏まえてどのような装置構造を採れば「デチューニング」が可能となるかについての検討であり、これはPIを実現するための1つの過程と捉えることができる。4 「デチューニング」を実現する装置構造「デチューニング」を行うためには、理想状態である可逆蒸留をどのように解釈するかが重要となる。図3の可逆蒸留塔は、多数(無限個)の加熱器(リボイラー)と冷却器(コンデンサー)で構成されている装置と見なすことができる。これらを高さの異なる多数(無限)の蒸留塔に分解すると、図4a)のような構成になる。ここで、本来無限個の蒸留塔で構成される図4a)をたかだか2本の蒸留塔に「デチューニング」して「単純化」すると図4b)になる。このプロセスは、1960年代にPetlyuk らによりその特性が研究され、一般にPetlyuk塔と呼ばれている[11]。この考え方の延長でさらに単純化が検討され、ドイツBASF社等により開発された蒸留プロセスが欧州のプラントを中心に実用化されている。わが国では協和発酵(株)や住友重機械工業(株)により商用機が開発されている[12]。 もう1つ別の視点で可逆蒸留操作を捉えた例を次に示す。蒸留塔では、基本的な特性として上部ほど低沸点成分の濃度が高く温度が低い。ここで、先に述べた逆カルノーサイクルの原理を用いると、低温熱源から取り出した熱を高温にして供給することが可能となる。この観点からの「デチューニング」のアプローチを図5a)に示す[13]。圧縮機はヒートポンプの役割を果たしており、蒸留塔とヒートポンプを「統合化」したプロセスである。この図では、多数の圧縮機を用いて上部から抜き出された熱を圧縮により昇温して下部に供給している。これにより、圧縮仕事の投入を除けば可逆蒸留操作に近いプロセスとなる。そこで圧縮機は1機だけ用い、濃縮部と回収部の各1箇所のみで熱交換を行うように「デチューニング」すると図5b)となる。この図のような装置は、一般に蒸気再圧縮塔(Vapor Recompression Column, VRC)と呼ばれている。VRCは、塔頂と塔底間の温度差が比較的小さい場合に有利とされ、低濃度のエタノール濃縮などで実用化されている例がある。VRCでは、塔頂と塔底という装置内で最も温度差の大きな部分の間でのみ熱の授受を行い、しかも加熱と冷却も各1箇所のみで行っている。これにより可逆蒸留操作よりも装置を「単純化」できるが、可逆蒸留操作との乖離は大きくなり省エネ性も限定的なものとなっている。5 より理想状態を目指したHIDiC前節で紹介したPetlyuk塔とVRCは、それぞれ独立した省エネ蒸留のアイデアであり、図1のBやCに相当する。b) Petlyuk Column・ ・a) 多塔化された可逆蒸留操作図4 多塔による可逆蒸留操作へのアプローチ
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