Vol.2 No.1 2009
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研究論文:蒸留プロセスのイノベーション(中岩ほか)−53−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)の省エネ化を進める際のアプローチを模式化したものである。ここでプロセスの改善・改良などによる通常の省エネ化は、山のすそ野から少しずつ山を登っていくことに相当する。これに対して「デチューニング」では、まず山の頂上を確認しておき、そこから省エネ性を勘案しつつコスト等も考慮しながら山を下りていくイメージとなる。このとき下山する経路は1つではなく、経路により降り立つ地点も変わってくる。このような省エネ化アプローチには、主として2つの特長がある。1つは、理論的限界から下りてくるため、技術開発として考えた場合に原理的に不可能な目標設定にはなり得ないことである。もう1つは、ある 「デチューニング」による現実化が様々な要因で困難となったときには、山頂に戻って別の下山経路を検討することが比較的容易なことである。問題点としては、「デチューニング」の結果が現状のプロセスから大きくかけ離れたものになってしまう可能性が挙げられるが、逆に言うと「不連続で急激な動的変化を伴う変革」であるPIを実現しうるということにもなる。3 「デチューニング」による蒸留プロセス省エネ化の戦略まず前節の議論を踏まえて、蒸留プロセスの省エネルギー化の歴史を振り返ってみる。蒸留プロセスは紀元前に香料を精製するために使用されるなど、最も古くから使われている化学プロセスの1つである。その原理は加熱による溶液の蒸発と冷却による凝縮で、溶液成分の沸点差に基づいて液体を分離するというものである。操作としては、容器に仕込んだ原料液を一定時間加熱し、発生する蒸気を冷却・液化して集める、いわゆる単蒸留が行われていた。その後アルコールや酸の製造など、またイタリアのルネッサンス期には錬金術(オカルトではない自然の理を利用する技)の重要な技術として、蒸留操作は蒸留酒を始めとして様々に応用されてきた。それが18世紀から19世紀にかけて、熱がエネルギーの1つの形態であることや蒸発潜熱の概念が明らかにされ、蒸気の持つ熱で液体を加熱可能なことがわかり、様々な試みを経て19世紀末に原油からの自動車用燃料精製のニーズにより現在の連続蒸留プロセスの基礎が確立された[7][8]。この単蒸留から連続蒸留への展開は、蒸留操作については「単純化」しつつ、プロセスの性能としては高性能・連続・大量処理などの「高効率化」を実現したものであり、PIの実現であると言うことができる。蒸発潜熱という当時の最新の科学的発見が、プロセスの大きな変革をもたらしたのである。 一般的な連続蒸留塔の概略を図2に示す。原料を供給する部分より上部を濃縮部、下部を回収部と呼んでいる。濃縮部では原料より低沸点成分の濃度が高く、回収部では高沸点成分の濃度が高い。内部ではトレイまたは段と呼ばれる棚状の構造物や様々な形状の充填物により、下部より上昇する気相混合物と上部より下降する液相混合物が接触するように工夫されている。この接触により気相混合物と液相混合物の間で蒸発潜熱が移動し相変化する。この際に、発生する気相は液相よりも低沸点成分に富み、液相は気相よりも高沸点成分に富むことになる。したがって、塔の両端に向かって低沸点成分と高沸点成分を濃縮することが可能となる。このような原理から、蒸留塔では液相を分離するにもかかわらず、溶液をいったん気相に変換するために必要な蒸発潜熱を塔底のリボイラーから供給しなければならない。また塔全体にわたって物質移動のための気液接触が可能となるように、塔頂のコンデンサーで蒸気から凝縮潜熱を奪って再び液相に戻す操作も必要となる。 連続蒸留塔プロセスでは、上記のように塔全体で気液接触を行わせるために塔頂と塔底で冷却と加熱を同時に行う。熱力学的な解析によれば、図3のように蒸留塔の濃縮部で高さ方向に沿って連続的な冷却を行い、回収部で製品(高沸点成分)製品(低沸点成分)混合溶液(原料)加熱冷却リボイラーコンデンサー回収部濃縮部加熱冷却塔底製品塔頂製品原料回収部濃縮部図2 通常の連続蒸留塔図3 可逆蒸留操作

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