Vol.2 No.1 2009
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研究論文:ユビキタスエネルギーデバイス開発のための材料基礎解析(香山ほか)−46−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)Li2MnO3-LiFeO2の開発グループと緊密に連携し、問題点や課題、実験観察プランを日常的な議論の中で検討しながら進めていったことである。4.2 燃料電池電極触媒の微視的構造と劣化機構固体高分子形燃料電池では、炭素材料にPt粒子を担持させた構造(Pt/C電極)を電極触媒として用い、負極のPt粒子上で燃料の水素ガスの解離・酸化(H2→2H+ + 2e-)により電子を取り出し、プロトンH+は高分子電解質を通じて正極へ移動する。正極では、同様にPt粒子上でプロトンと酸素の反応で水が生成する(1/2O2 + 2H+ + 2e-→ H2O)。このとき炭素と導線を通して負極からの電子が使用される。水素ガス中には、しばしばCOが混入しており、それが負極のPt粒子の触媒活性を阻害する(CO被毒)ため、Pt-Ru合金粒子などが用いられる。Pt粒子やPt合金粒子のサイズや分散、電極組織を制御し、希少金属Ptの量を減らしながら反応効率を上げることが重要である。Pt/C電極は使用による劣化が問題であり、その機構を明らかにすることが求められている。電極触媒の開発と劣化試験を行っているグループと緊密な連携の下、電顕観察による解明を試みた[11]-[13]。燃料電池の電極触媒の電顕観察例は極めて稀である。電解質膜−電極触媒接合体をウルトラミクロトームにより薄片化してTEM用試料を作成し、試行錯誤により最適な観察条件を探索した。図5はPtRu/C電極触媒の典型的な高分解能透過電顕(TEM)像である。触媒微粒子の格子像が明瞭に得られており、良好な高分解能観察が可能であることを示している。様々な条件で燃料電池を作動させ、劣化試験を行うと、触媒金属粒子の粒子径が大きくなること、PtRu粒子からRuが溶出すること、また試験条件に依存して、電解質膜中に触媒金属の粒子が析出すること等が、電顕で観察された(図6)。析出粒子は負極、正極に供給するガスの種類や電解質膜の厚みを変えることで、粒子径分布や粒子の空間分布が変化する。こうした触媒金属粒子の溶出・析出挙動が、炭素材料の酸化とともに劣化現象の一つの要因であることが初めて明らかにされた。燃料電池電極触媒の微視的構造や劣化の様子の電顕観察は、国内外に先駆けて行ったものである(各種受賞、表1)。一方、Pt/C電極の機能やナノ構造を理解するためには第一原理計算が重要である。様々な形態のPt金属やPtクラスターと炭素(grapheneシート)との基本的な界面相互作用の第一原理計算をすすめている(図7)[14]。grapheneシートのπ結合面は反応性が小さく、Pt-C間の相互作用(結合)エネルギーは、Pt原子当りでは単原子で最大、クラスターで配位数やサイズが増えるほど減り、結晶面で最小になる。こうした計算データを用いてPt/C電極のメズスケール組織のシミュレーションが可能である。電顕観察像と対照できる結果が得られており、金属/無機ナノへテロ界面の学理としても重要である[15]。以上の成果は、具体的に燃料電池電極触媒を作成し劣化試験を行っているグループとの日常的な連携や議論により初めて可能となったものである。CCCCCCCPtPtPtPtPt図5 PtRu/C電極触媒の高分解能TEM像。図6 Pt/C電極(正極)と電解質膜界面付近に析出した粒子のTEM像。(a) 50 µm厚さの電解質膜を用い、Pt/C電極に窒素を供給し87時間電位印加、(b) 175 µm厚さの電解質膜、窒素を供給し87時間電位印加、(c) 175 µm厚の電解質膜、空気を供給し30時間電位印加、(d) 175 µm厚の電解質膜、空気を供給し87時間電位印加。電解質膜厚みと供給ガス、時間に応じて、析出Pt粒子の様子が変化している。図7 Pt10クラスター/graphene系の第一原理計算結果。緩和構造と価電子密度分布。界面での電子移動、軌道混成は少ない。
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