Vol.2 No.1 2009
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研究論文:ユビキタスエネルギーデバイス開発のための材料基礎解析(香山ほか)−45−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)れれば、更に優れた材料の開発に繋がる。そこで、本材料の開発グループとの緊密な共同の下、電顕観察による解明に取り組んだ。まず、STEM-EELSスペクトラム・イメージング法(電子ビームのscan位置毎に、各元素固有の電子線エネルギー損失スペクトル(EELS)データを蓄積し、元素濃度分布を定量化し、画像化する手法[7])とナノビーム回折法から、本材料の各粒子が、共通の酸素格子の元でFe-rich (LiFeO2的)、Mn-rich(Li2MnO3的)の化学ナノドメインを有する構造であることを発見した(図2)[8][9]。明確な粒界・界面を有さないナノスケールのドメイン構造は他に例のない新発見である。二相間で格子定数差が小さく、界面近傍で原子レベルの混合があるためと考察される。従来のX線観察等では、平均化された情報としてLiFeO2的な相とLi2MnO3的な相があることは推定されたが、化学ナノドメイン構造の形で存在することは予想を超えた結果である。化学ナノドメイン構造が大容量を生むメカニズムを探るためにはLiイオンの出入りの様子を充電・放電の各過程で探ることが必要である。そこで、Liイオンの実空間濃度分布をSTEM-EELSスペクトラム・イメージング法で可視化する新技術を開発した。従来、LiのEELSデータの解析は容易でなく、Li濃度分析の定量解析は事実上不可能であった。試料厚さがある程度薄ければEELSスペクトルの二次微分ピーク強度が濃度に比例すると見なせることから、データ解析法を工夫することでLi濃度分布の定量的な可視化に成功した[10]。これはLiイオンの実空間分布を探る世界初の手法である。図3のように、電池セルでの充電と放電の各過程の正極材料に新手法を適用することで、充電過程ではFe-rich領域から先にLiが抜け、その後、続けてMn-rich領域からも抜けること、放電後では確かにLiが戻っていること、しかし、容量の低下に対応して局所的に回復濃度にムラがあること等が判明した[10]。図4に示すように、ナノドメイン構造になり、Liイオンの拡散に有利な層状構造のMn-rich領域で囲まれることで、バルクでは不活性なFe-rich領域が活性化し、続いて、Fe-rich領域でLiが枯渇すると引きずられてMn-rich領域からもLiイオンが抜けるようになることが、明確になった。4価のMnからなるLi2MnO3領域でのLi引き抜きによる電荷補償は酸素が担うと考えられる。容量低下は、この電荷補償による中性酸素の離脱に起因すると考えられ、実際に酸素の濃度低下がSTEM-EELSスペクトラム・イメージング法で観察された。 以上、電顕技術を駆使して、化学ナノドメイン構造を発見し、Liイオン濃度の定量的な分布可視化技術の開発に成功することで、化学ナノドメイン構造が各構成物質を活性化し、大容量化するメカニズムを明らかにすることができた。ナノ構造が具体的に正極材料の性能に深く関わることが明確になったことの意義は大きい。現在、こうした化学ナノドメイン構造の最適制御の観点からの材料性能の向上が図られている。以上の成果が得られた大きな要因は、 (a)(b)(C)10 nm02040608010 nmFe/(Mn+Fe) [at. %]LiFeO2領域Li層Li層Li層Li2MnO3領域OLiMnFe充電前充電後 (315 mA h/g)充電中途 (150 mA h/g)放電後 (232 mA h/g)(ⅰ)(ⅱ)(ⅳ)(ⅲ)Fe/(Mn+Fe) (at. %)Fe/(Mn+Fe) (at. %)Fe/(Mn+Fe) (at. %)Fe/(Mn+Fe) (at. %)Li濃度 (arb. units)Li濃度 (arb. units)Li濃度 (arb. units)Li濃度 (arb. units)01010101020406080020406080020406080020406080Li2MnO3利点: Li量豊富、Li拡散容易欠点: 不活性Mn4+利点: 豊富な活性Fe3+欠点: Li拡散難しい単独バルク相ではLi挿入脱離は不活性共通の酸素格子でナノレベルで接合ナノドメイン構造ナノドメイン構造により、両相の利点を生かした高機能化が実現LiFeO2図2 大容量のリチウムイオン電池正極材料Li2MnO3-LiFeO2粒子の透過電子顕微鏡像(a)、STEM-EELSスペクトラム・イメージング法による遷移金属元素濃度分布(b)、化学ナノドメイン構造の概念図(c)。図3 リチウムイオン電池正極材料Li2MnO3-LiFeO2粒子の、充電・放電の各過程での、遷移金属元素濃度分布図(上図)とリチウム元素濃度分布図(下図)。(i)の充電前試料では、粒子はLi2MnO3(緑・青)とLiFeO2(黄)の化学ナノドメイン構造となっている(上図)。この段階ではリチウムイオンは、粒子全体に分布している(下図)。(ii)の50 %充電試料では、リチウム元素濃度分布の青の領域(下図)と遷移金属濃度分布の黄色の領域(上図)とが一致していて、充電初期にはリチウムイオンはLiFeO2ドメインから優先的に脱離している。(iii)の100 %充電の試料では、粒子全体(Li2MnO3とLiFeO2の全ドメイン)からリチウムイオンが脱離している(下図)。(iv)は放電後の試料の元素濃度分布であるが、粒子全体にリチウムイオンが戻っている(下図)。しかし、リチウムイオンの分布にむらがあり、リチウムが粒子全体に完全には戻っていない。図4 化学ナノドメイン構造によるLi2MnO3-LiFeO2系正極材料の高性能化の概念図。

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