Vol.2 No.1 2009
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研究論文:ユビキタスエネルギーデバイス開発のための材料基礎解析(香山ほか)−43−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)教訓を議論する。特に、材料開発における材料基礎解析 (第1種基礎研究)の役割、意義について論じる。2 エネルギー環境材料の基礎解析の重要性燃料電池やリチウムイオン電池、水素吸蔵デバイスや水素製造・精製装置など、多くのユビキタスエネルギーデバイスは、電極での分子の反応やイオンの出入りに伴う電子のやり取りを利用したり、エネルギー媒体の様々な反応や吸収・放出を利用するものである。ナノ粒子やナノ構造、表面・界面の特異な性質や現象が機能を支配すると考えられるが、詳細なメカニズムは完全には解明されていない。こうしたエネルギー環境材料の構造や機能、様々な現象を、電子顕微鏡観察や第一原理計算を用いることで、実験的、理論的に解明することは、材料開発の見地から極めて重要である[3]-[5]。例えば、優れた機能を有する材料が見つかった場合、なぜ優れた機能が発現するのかを理解しなければ、さらなる改良や発見、開発につながらない。特に、ナノ構造体の構造と機能の相関が解明されれば、ナノ構造の設計制御から飛躍的に優れた材料を開発できる可能性が広がる。また、機能材料は使用を重ねると、しばしば機能が劣化するが、微視的なレベルで何が起きているかを理解しなければ、劣化への対策や改良の方策が立てられない。経験や勘から闇雲に物質・材料を探索するよりも、物質・材料の結晶構造やナノ構造、電子構造を理解して進める方が、はるかに効率的である。もちろん、材料開発は、偶然(serendipity)が支配する場合も多い。しかし、効率的にserendipityを招く、或いはserendipityを見逃さない、という見地からも、微視的な解析を並行して進めることは不可欠である。一方、エネルギー環境材料の基礎解析には独自の困難が存在する。機能の発現には、ガス雰囲気や電場下での吸着や反応、電子移動、酸化還元、価数変化など、複雑な反応過程や水素(プロトン)やLiイオンの物質移動が伴う。電子顕微鏡観察は、通常、超高真空下での観察であり、また、水素やLiといった軽元素の電顕観察は一般に容易ではない。現時点の第一原理計算では、大規模な反応系や物質移動・電子移動の扱いは容易ではない。エネルギー環境材料の基礎解析を進めるには、基礎解析手法自体の改良や革新も必要となる。このことが他の材料分野(例えば、半導体デバイス)に比べて基礎解析の適用が遅れている要因である。3 材料開発と材料基礎解析の連携における問題点ユビキタスエネルギーデバイスやそのための機能材料の研究開発現場では、基礎解析の適用により解明すべき課題が山積している。しかし、具体的に、効率的で有意義な連携を実現するには、いくつかの問題点や困難が存在する。第1に、材料開発と基礎解析の取り組みのペース、位相が、必ずしも会わない。基礎解析の方は、解析手法の開発も関わるため、1つの課題を長期にわたって扱うことが多い。自然に別個に進める傾向が生じ、機動的な連携が阻害される。第2に、実際の材料や現象は、しばしば複雑すぎて、基礎解析の適用自体が容易でない。この点で、実材料ではなくモデル材料を扱うことも必要となり、材料開発の現場と基礎解析の間の緊密な議論が必要となる。第3に、材料開発と基礎解析の研究者の間に、目的や価値観、問題意識や知識のズレ、互いの研究内容の理解の不足がしばしば生じ、緊密な連携を阻害する傾向がある。産総研(関西センター)ユビキタスエネルギー研究部門(2004年~)では、先行する生活環境系特別研究体開始時(2001年~)より、電子顕微鏡観察、走査プローブ顕微鏡や第一原理計算に携わる研究者でグループを編成し、材料基礎解析を本格研究の一翼として、如何に位置づけて、材料開発に貢献させるか、そのための方策を議論してきた。その理由は、第1に、前述のようにエネルギー環境材料では、ナノ構造が現象や機能の鍵を握ると考えられ、基礎的な解析を通じた設計や制御により、飛躍的な開発に繋がる可能性があること、第2に、基礎解析と開発との連携の取り組み自体に、研究方法論としての創造的な価値があると考えることである。もちろん、第3に、研究資金を集め、大型装置を維持していくためにも、こうした連携の取り組みは有利である。図1は、基礎解析の側からの連携の取り組みの概要を説明したものである。まず、ユニットの運営として、①開発研究と基礎解析との目的意識の共有化、②機動的な共同や緊密な議論のできる体制の構築、を進めてきた。ユニット全体のコロキウムやworking groupの開催、ユニット長やグループ間の議論を通じて推進され、誘導する予算措置もとられた。筆者ら基礎解析グループとして、これに応えつつ、本格研究の一翼としての基礎解析の役割を議論し、①死の谷を乗り越えるための解明・探索、②シーズの発見、普遍化・体系化、と定式化した。このことから、開発との具体的な連携の推進と、基礎解析グループとしての独自の継続的な体系化の活動、の両面が必要であると言える。後者の点では、ユビキタスエネルギーデバイスで機能の鍵を握る場合が多い「金属/無機ナノへテロ界面」の学理の構築・体系化を目標に掲げた[3]。後述の金触媒に代表される金属/酸化物へテロ触媒や燃料電池のPt/C触媒では、界面のヘテロ効果や金属粒子のナノサイズ効果が大きく機能に関わると考えられているが、その詳細は不明であ

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