Vol.2 No.1 2009
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研究論文:グリッドが実現するE-サイエンス(田中)−38−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)用化に向けて解決すべき課題としては、以下の5つがあげられる。(1)ツールキットの作成今回利用したグリッドミドルウエアの多くは、インストールおよび設定が煩雑であり、誰でも容易にインストール、利用できるというレベルにない。ユーザに対しては、ユーザ名とパスワードのみで利用可能な簡便なインタフェースを提供しているが、今後様々な応用分野への展開を図るには、サービス提供者やVO管理者などすべての参加者に対して、必要なミドルウエアセットを容易にインストール、設計できるツールキットとして提供する必要がある。(2)より柔軟な認証機能の実現既存の応用コミュニティには、例えば一部のバイオ情報分野におけるOpenIDの利用など、すでに独自の認証機能を採用しているものがある。既存の研究環境からE-サイエンス環境へのシームレスな移行を実現するために、OpenIDやShibboleth、Kerberos認証などの、すでに利用されている認証機構からグリッドの認証情報を生成する、より柔軟な認証機能を実現すること必要である。(3)ワークフローの構築応用研究者の多くは、数多くのデータに対してある決まった手続き(処理の流れ)を適用する。地震発生時の地震振動解析や液状化予測、水位が上昇したときの洪水予測など、迅速に必要なデータを取得し、多数のシミュレーションを実行するには、それらの手続きをワークフローとして構築し、利用できることが望ましい。グリッドにおいてはワークフローの先行研究も多々行われているが、GEO Gridでもワークフローの導入、構築が必要である。(4)高速化大規模な画像データの処理には大規模な計算資源が必要なものが多いが、既存のソフトウエアでは画像処理に数分から数十分かかってしまう。インタラクティブなデータ配信を考えると、画像生成はせいぜい1~2分程度で終わることが望ましい。近年CELL/B.E.TMのように画像処理に適したマルチコアアーキテクチャが利用されるようになっているが、GEO Gridにおいても最新のアーキテクチャを活用した画像処理やシミュレーションの高速化が期待される。(5)メタスケジューラの開発今回構築したシステムでは、シミュレーションや画像処理を行う計算サービスは単一のサイトから提供されているが、今後同一のサービスが複数のサイトから提供されるようになった場合には、どこにどういったサービスやデータが存在するかを管理するレジストリ、サービスを提供する計算サーバの付加状況を監視するモニタリングシステム、それらの情報をもとに「最も良いと思われる」サービスを選択するメタスケジューラの開発が必要である。これら5つの課題すべてについて研究を進めているが、(1)~(3)については1~2年程度を目途に実現できると考えている。(4)については個別のソフトウエアごとに高速化を行う必要があることと、商用ソフトウエアの場合はライセンスの問題でソースプログラムが提供されない場合が多いといった問題があるが、すでにCELL/B.E.TM上での画像処理ソフトウエアの高速化に関する予備評価を行い、実現可能性の目途は立てている。(5)に関してはグリッドが抱える最大の課題と考えている。グリッドの概念である「コンピュータをネットワークに接続すれば、どこの資源を利用するかは気にせずにサービスを享受できる」世界を実現するためには、このメタスケジューラの機能が必須となるが、グリッドを構成する資源群(ネットワークや計算サーバなど)の構成や有用性が動的に変化し、「最適」の判断が計算の性質(通信量と計算量の比率など)に依存する複雑な環境上で「最適」な資源を選択することは非常に困難である。我々はGEO Gridのシナリオとしてユーザに影響を与えない範囲で制約を設けることにより、この課題を解決すべく研究を進めている。7 研究開発の進め方本研究は、融合領域研究として、産総研地質情報研究部門と、地質調査情報センター、環境管理技術研究部門及びグリッド研究センター(現在は情報技術研究部門)との間でニーズとシーズを持ち寄り、システムの実装方法の検討を行った。グリッド研究センターは、地質調査情報センターからグリッド研究センターへの人事異動や、防災科学研究所、宇宙航空研究開発機構、国立環境研究所など応用分野の研究者を採用するなどして、情報分野の研究者と応用分野の研究者が密に議論することによってGEO Gridの研究開発を推進する体制を強化した。定期的にGEO Grid運営会議を開催し、GEO Gridの方針や対外機関との関係づけ、懸案事項の洗い出しおよび対処などについて議論を行うとともに、進捗管理を行った。また、グリッド研究センターだけでも、応用系と情報系を合わせると総勢20名程度となる大規模プロジェクトを円滑に推進するため、応用系と情報系のそれぞれが定期的に会議を開き、進捗管理や問題点の洗い出しおよび解決に向けた議論を行い、研究チームメンバー間での意識の共有に
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