Vol.2 No.1 2009
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研究論文:産業技術の社会受容(松本ほか)−31−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)いただいたご指摘を踏まえ、本稿では4.1節を新たに設け、目標設定とモデル検討の過程を記述して(図3)、本研究で拠り所にした説得性についての記述を加えました。要点は、目標設定については「普及予測の対象が短期(数年スパン)か長期(数十年スパン)か」がモデル選択の判断基準になり、説得性については「類推の説得性」、この場合は、環境製品の普及速度を評価するのに、「なぜこの予測結果か?」と問われたときに、「過去の類似製品の普及速度もこれくらいであった」と回答する論理にしたという点を強調しました。議論2 研究の目指す究極のゴール(夢)について質問・コメント(持丸 正明)産業技術が社会に受容されていく工程を研究対象とし、その計算論的なモデルを構築するのは意義のあることだと理解します。今回は具体的事例として経済産業省の調査事業を取り上げてありますが、そもそも、このような社会受容モデルが行き着く先(研究者の夢と社会的価値)を冒頭で示して下さい。たとえば、本論文の末尾に書かれてあるようなことです。通常の学術論文では、当該論文で解決する具体的課題の意義と困難性を冒頭に書き、末尾に今後の展望と展開を記載するのが一般的です。Synthesiology誌では、あえて研究者の夢(当該論文では解決し切れていないが、将来実現したい社会像)を冒頭に描き出し、それを具体化していくステップとして、どうして当該論文のような課題設定を選んだかということを書くように推奨しております。それは、大きな夢をステップを踏んで実現していく考え方(知識体系)もまた“構成学”であると考えるためです。回答(松本 光崇)夢として、技術と社会の相互関係をより深く理解したいという思いがあります。昨今企業では技術経営(MOT)やイノベーション経営といったことが、政策でも Science of Science Policy といったことが言われます。いずれも技術と社会の関係の理解の追求と言えます。そうした内容と密接に関連します。本研究はその中でマーケットに近い部分を扱ったものと言えます。またその夢を追求するアプローチとしては、研究テーマを一つ一つ実施しながらそれらがその大きな目標に向かって積み重なっていくという形になれば理想的であると考えています。目標につきまして本稿の冒頭に記述を加えました。議論3 消費者選好モデルの時代依存性について質問・コメント(持丸 正明)消費者選好モデルの表現とそのパラメータ取得方法は有効なものであると理解しています。その上での質問です。このような消費者選好モデルは、時代依存性(社会的コンセンサスの影響)があるように思います。たとえば、「環境意識の高まり」というような社会的な時代変化がHtの値に影響するのではないでしょうか。回答(松本 光崇)ご指摘のとおり消費者選好の時代依存性は多分にあると考えます。回答1のモデル選択にもそのことが深く関係しました。ベースのモデルを消費者選好モデルからBassモデルに変えたのも、消費者選好が時代とともに変化するため前者をモデルのベースにするのは困難と判断したためでした。この研究では消費者選好の時代依存性についてはシナリオとして扱うことにしました。具体的には、例えば環境意識の高まりについては、消費者の製品の環境イメージに対する重要度(モデルでは式(6)の “Wi 環境イメージ”)が高まるとして、本稿の補助金シナリオと同様の形で評価をしました。現実世界で消費者の環境意識がどの程度変化しているかという点は興味深いところです。議論4 モデルの検証について質問・コメント(持丸 正明)実社会での人間集団的行動のモデルですから、その検証が難しいことはよく理解できます。まず、基本的な検証としてパラメータ感度の確認というのは、現時点でも可能な検証方法ではないでしょうか。統合モデルにおいて必要なパラメータを類似現象や実験データによって決定していますが、これらのうちどのパラメータが予測に強く影響するのか、パラメータの同定にどの程度の慎重さが必要となるのかは、シミュレーション解析できるかと思います。もう1つの方策として、実社会ですでに実施した社会政策介入と技術普及の度合いが、本手法のモデルによってどの程度再現できるかを検証するという方法が考えられます。たとえば、カリフォルニア州で実施したハイブリッド車の道路優遇が、技術普及にどの程度影響したかを、近縁他州と比較しながら、本手法のモデルによって再現を試みるというような方策です。実際に検証する(そのデータを得る)のは困難性を伴うようにも思いますが、その場合には、どういう困難性があるかを示していただけると助かります。回答(松本 光崇)検証については苦慮しているところです。過去の製品の普及推移と、物価統計から得た価格変化データを使って、製品価格と普及率変化の関係を統計的に抽出することも試みましたが、統計的に有意な結果が得られませんでした。パラメータ感度という点では、製品価格、ランニングコスト(電気代/ガソリン代)、環境性能向上、環境意識、の変化が製品普及に及ぼす影響を探索する作業をしました。相対的な感度は基本的にコンジョイント分析の結果に依存します。想定される変化範囲内で感度分析をした結果では、環境性能の向上が普及促進に有効であるという結果を得ました。絶対的な感度については、感覚的には本モデルは感度が鈍目なモデルであるかもしれません。結果(図9)でシナリオによってあまり変化がないことからもうかがえるかと思います。そこでご示唆をいただいたもう1つの方策です。カリフォルニア州の施策の検討は非常に興味深いものです。現在そうした政策評価の既存研究を調査しています。検証材料としては、例えば家庭用太陽光発電システムは自治体によって補助金金額が異なっていますので、その普及との関係性であるとか、また環境製品ではありませんが、自動車のETCなどは高速料金割引によって相当に強力な普及促進策を取っています。普及促進策の効果を見るには面白い事例です。検証についてはいくつかの観点から現在取り組んでいる課題です。
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