Vol.2 No.1 2009
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研究論文:産業技術の社会受容(松本ほか)−25−Synthesiology Vol.2 No.1(2009)で依拠した説得性は3種ある。①結果の説得性、②論理の説得性、③類推の説得性、である。①はモデルの結果と現実が一致することによる説得性であり、本来最も説得力がある。しかし予測の場合現実の結果が得られないことが多く(例えば「20年後の普及」は現時点で分からない)、この基準は使えないことが多い。しかしモデルが普及実績を説明できない際に、反証、つまりモデルの非妥当性を知るのに使える。②はモデルの前提と論理が妥当であることによる説得性であり、③は現実と類似のケースをモデルが参照することによる説得性である。これらを踏まえ本研究のモデル決定の過程を示すと図3のとおりである。当初消費者選好の把握が第一と考え、消費者選好モデルベースの普及モデルを構築した。しかし現実と符合する普及曲線を描けず(①が×)、そこでいくつかの補正を加えて現実と符合するものとしたが、結局は予測値に対する十分な説得性が得られなかった(②が×)。ここでモデルを再考した。再考の中で鍵になったのは、普及分析の対象が長期間(数十年)か短期間(数年)かという点であった。短期に対しては消費者選好モデルが、長期にはBassモデルが有効であることに気づいた。これは既存文献にも記載がなかった点である。本研究が長期を対象とすることを確認し、Bassモデルベースのモデルとした。Bassモデルでは類似製品の普及係数を参照することができる(3.1節)。これにより例えばハイブリッド車の普及には過去の他の自動車製品(AT車等)と同様に40年から50年を要することや、省エネ型家電の普及には関連製品と同程度の年数を要すること等を参照することができる。これは③の類推の説得性である。次にBassモデルで困難な感度分析を可能にするために、消費者選好モデルを組み入れることを図った。統合の方法は次節で示す。検討した統合法の中で最善の説得性を持つと判断した(②が最良)。ただしこの統合方法はまだ議論の余地があると考えている。4.2 モデルの定式化本研究ではBassモデルの元の式(1)を修正して次のモデル式でモデルを定式化した。変化が普及に及ぼす影響の分析が困難である。これまでBassモデルを拡張して価格変化や製品広告の影響をモデルに組み入れようとした試みもなされてきたが[5][6]、十分な実績統計データがあることが前提であり、実際の適用は困難であった。3.2 消費者選好モデル消費者の製品選好モデルを構成して、それに基づき普及を分析するアプローチがある注1)。消費者選好モデルの単純な形としては、消費者が最も経済的に合理的な技術・製品を選択するという仮定を置くものがある。また消費者の選好と意思決定をさらに精緻にモデル化するものもあり、精緻なモデル化には後述のコンジョイント分析が良く用いられる[7][8]。こうしたアプローチは価格や性能等の変化が消費者選好に及ぼす影響を精緻に分析できるため、その変化が普及に及ぼす影響を分析できることが長所であるが、原則として時間項を持たないため、普及の時間推移、特に長期推移を分析するのが困難である。3.3 学習曲線モデル学習曲線モデルは工業製品のコスト低下の分析に用いられる[9][10]。新しい製品は量産とともにコストが低下する傾向がある。学習曲線はその傾向を記述するモデルである。図2は太陽電池の生産量と価格の推移実績である。過去の実測からは「累積生産が2倍になると生産コストや生産に要する時間が一定割合だけ低下する」という経験則がある。低下の割合は半導体産業で15〜30 %、機械組立産業で5〜20 %とされる[10]。3.4 既存モデルの特性以上のモデルの特性を表1にまとめる。4 モデルの決定4.1 モデル決定までの過程前節で3つの既存モデルを示した。これらをいかに用いるか(あるいは用いないか)、いかに統合するかについては長い試行錯誤が必要であった。この過程で研究目標を明確化し、説得性の高さを基準にモデルを構成した。本研究太陽電池の生産と価格システム価格生産量生産量 (kW/年)システム価格 (千円/kW)1600060008000100001200014000200040000400,000200,000250,000300,000350,000100,000150,000050,0001979198619851984198319821981198019901989198819871999199819971996199519941993199219912000200320022001図2 太陽電池の生産量と価格の推移普及推移を総体で見るマクロモデル。長期の普及推移分析に適する。感度分析が困難。 普及を消費者選好から見るミクロモデル。短期の普及推移分析と感度分析に適する。長期の普及分析は困難。 工業製品のコスト低下の推移のモデル。Bassモデル消費者選好モデル学習曲線モデルモデル 特性表1 既存モデルの特性
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